桂  米朝 師匠編

 


人間国宝「桂 米朝師匠」のご登場となりました。

上方落語の四天王の一人でして、一時期すたれかけた上方落語を今のように

隆盛にした「中興の祖」です。正岡 容氏と親交があつく、多いに影響を受けた

と聞いております。惜しくも亡くなられてしまった枝雀師匠の師匠です。

米朝師匠は、古い落語でやり手のいなくなった噺を掘り起こすことに努力を

されており、師匠の手でよみがえった噺がたくさんあります。

その意味では「研究肌」の師匠ということになります。

ですから、自作の落語もありまして、下表にある「一文笛」は名作です。

もはや「古典」になったと言えましょう。この噺は弟子の「ざこば」師匠が

心酔していまして、感情移入が過ぎて高座で涙を流しながらやったという

エピソードが残っております。拙い文章ではありますが、紹介をすることに

いたします。

「豆狸」という噺も好きなものの一つです。これも紹介することにします。

「けんげしゃ茶屋」というのは、上方弁で「けんげしゃ」即ち「気にしや」の

旦那がお茶屋で忌み言葉に辟易するという噺で、「かつぎ屋」という噺があり

ますが似ておりますね。(設定は全く違いますが)

「池田の猪買い」などは江戸落語には伝わっておりません。(当然ですが)

その点、「骨つり」は江戸落語では「野ざらし」です。

「鹿政談」も上方ならではの噺です。奈良の鹿は奉行所に保護されており、飼料

代も支給されている。鹿を危めると重き咎に処せられるというほど。

或る日豆腐屋の店先で「おから」を盗み食いしていた鹿を追い払おうとして、

犬と間違えて殺してしまった主人を巡る噺でして、正直者の主人をなんとか

助けようとする奉行の情けがうれしい。この奉行が見事な裁きをするのである。

落語の中に出てくる奉行は結構、いい人物として語られます。悪奉行はあまり

出てこない。高座で奉行の悪口は言えなかったのかもしれません。

米朝師匠の噺口とでもいいましょうか、それがよく現われているのが、「猫の

忠信」でしょうか。滑稽噺は米朝師匠。音曲物が得意な文枝師匠。色気のある

噺では春団治師匠。酒飲みの噺は松鶴師匠なのでしょう。

 

 

桂 米朝

たちぎれ線香

桂 米朝

豆狸

桂 米朝

饅頭こわい

桂 米朝

軒付け

桂 米朝

不動坊

桂 米朝

代書屋

桂 米朝

池田の猪買い

桂 米朝

鹿政談

桂 米朝

骨つり

桂 米朝

猫の忠信

桂 米朝

質屋蔵

桂 米朝

らくだ

桂 米朝

けんげしゃ茶屋

桂 米朝

始末の極意

桂 米朝

小話雑談

桂 米朝

本能寺

桂 米朝

替り目

桂 米朝

一文笛

桂 米朝

旅立ち

桂 米朝

三十石

 

「一文笛」…………………………・・という噺

 

若いが腕の良いスリがいた。この男、仲間同士でその腕を競い合ったりする。

用心深い旦那の腰にある煙草入れを狙ったりするが誰一人スレルものはいない。

この男、名を上げようと、この旦那と巧妙な交渉をして手に入れてしまうという頭の

いい機転のきく男であった。或る日この男、長屋に入っていくと駄菓子屋の前に子供の

人だかりがしていた。一個一文という鳥笛を買い求めているのだ。愛想の悪い店の

女主人が相手をしている。子供達から少し離れたところに汚い格好をした男の子が

もの欲しそうに立っていた。女主人はその子供に対して

「こっちにきちゃだめだよ。どうせ一文無しなんだから売れるものはないよ!」

とがなっている。この男の子は武士のでなのだが、父親が浪人し、病弱のために

寝たきりになっているので、その日の暮らしにも困っている。他の子供達のように

笛で遊びたくてもできようもない男の子を見ていたスリ男。店に近づいていき主人の

スキをみて笛を一個スリ取った。この程度のことはスリにとってはわけもないことだった。

スリとった笛を男の子の懐にそっとしのばすのも、スリならでは腕前。

だがこの行為が悲劇を生むようになるとは…………・

もらった笛で無邪気に遊んでいる姿を店の女主人が見つけた。

「これお前。その笛はどうしたんだ。家じゃうっていないはずだ。盗んだんだろ。この

盗人め!」

たちまちこのことは近所の知れることになり。父親から家をだされた子供は、仕方なく

思い余って井戸に身を投げてしまう。近所の人達があわてて助けるが命は危ない

状態だった。

この話がスリのあにき筋の人の耳に入った。スリの男を呼びつけて

「おまえなあ。なんであんなことをしたんや。たしかにお前はスリとしては腕はいい。

 一文笛の一つや二つなんてちょろいもんやろ。けどな、お前が親切心でやったと思って

たら大間違いやで。スリとったものを子供に…おかげでな、子供は父親にこっぴどく

しかられてな、思い余って井戸に飛び込んで危篤状態じゃわい。」

「わてのしたことで子供が……………わてもうスリから足を洗います。いえ本心だ。

堅気になってまじめに働きますわ。これがわての覚悟だす。」

と右手の指を切り落としてしまった。

「おい、無茶なことをするなや。わかった。お前の覚悟は認めてやる。」

「えっ。ほんまだすか。それで医者にはみせてるんでっしゃろな。」

「あほいえ、そんな金どこにあるねん。長屋じゅうのものが金かきあつめてもT足らん」

「どないしましょ。」

「蘭学の医者なら助かるかもしれけどな。莫大な金がいる。」

「あの医者なあ。ここに来る途中の大店に来てましたがな。」

「そや。旦那をみにきているんじゃ。診察代を受け取るとな、芸者屋に直行だそうな。」

「よっしゃまかせときいな。」

とスリは出ていった。

しばらくすると、戻ってきて兄貴分の前に座ると

「どうぞこれで子供を助けてやっておくんなはれ。」

と、三十両を差し出した。

「どないしたんやこれは。」

「医者からいただいたんや。」

「まだ、お前の性根はなおっておらんようだな。盗んだ金で子供を助けられるか。」

「盗んだ金でも金は金です。あの算術医者に渡せば子供はたすかるんだ。どうか

つこうてください。」

「それにしても、利き手はなくしたんとちゃうのか。」

「あっしは左利きだんねん。」

 

 

「豆狸」…………………………・・という噺

 

大坂は南、三ツ寺筋に右三郎という若い役者が住んでいた。芝居小屋では下っ端で

大部屋の身分。稼業は膏薬屋で母親が商っていた。大部屋の役者につく役などは

たいしたものはなくて、「仕出し」とか「その他大勢」の役。「馬の足」などという役は

結構たいへんなので、大部屋では上のほうの順位となった。

右三郎は「とんぼ」をきる稽古を続けていて、下駄を履いたまま「とんぼ」をきったり

長刀をもったまま「とんぼ」をきることができた。このために役がついたりもした。

右三郎は、夜明け前には芝居小屋に行っていろいろ働き、一日中忙しくして夕方

芝居がはねると家にかえってくる。母親と夕食を食べると昼間の疲れで寝てしまう。

そんな毎日が続いていた或る日。いつものように芝居がはねて帰ろうとすると。外は

雨。知り合いに笠をかりて家路についた。当時の三ツ寺筋は寂しい所で、狸が出没

しては人をだますということがあった。右三郎は笠をさして歩いていると、ずしっという

重みが手にかかった。はてなとおもっていると、ぱっと消えてしまう。

しばらく行くとまたずしりという重さ。右三郎は

「ははあ、豆狸のしわざだなこりゃ。また人を化かしにきやがったんだな。すこし

懲らしめてやろう。」

と右三郎、このへんかなと思うと、傘を持ったままポンと宙返りをした。

ぎゃっという声が聞こえて居なくなってしまった。

翌日、芝居がはねて家に帰ると母親が怪訝な顔をしている。わけを聞くと

膏薬の商いの勘定が合わないという。膏薬は貝殻に薬を詰めて一個一文。

勘定のしやすい商売であった。何でも稼ぎを入れておく箱の中にイチョウの葉っぱが

入っていて勘定がたらんという。

翌日、帰ってくるとまた勘定があわないという。なんでも、見掛けない顔の子供が

やってきて膏薬を一個買って帰るが、その時は勘定があっているが一日が終わって

勘定するとイチョウの葉っぱが入っていて足らないという。

そんなことが続いた或る日、その子供が来なくなってしまった。

すると商いの勘定は合うようになった。

昼間、三ツ寺さんのところに人だかりがしているので右三郎が行ってみると、豆狸が

死んでいるという。体中に貝殻を貼り付けたまま死んでいた。

これをみた右三郎は、はっと気がついた。あの雨の晩に宙返りしてやっつけた豆狸

であった。

「かわいそうなことをしたなあ。もとはといえば、わいが殺したようなもんや。

 どうぞ皆さん、あわれやとおもうて、線香の一本もあげておくれなはれ。

 それから和尚さん、安いお経でいいからお願いいたします。」

 境内の片隅に葬って念仏を唱えていると、さらさらとイチョウの葉っぱが吹き寄せ

 られてきた。

「ああみてみい。狸の仲間から香典が届いたがな。」

 


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