九代目 桂 文治 師匠編

 


ご存知「留さん文治師匠」の登場です。飄々としたというか、とぼけた味というか、実に

いい師匠でした。「間に合っていない」方々も多いでしょうが、運良く、お会いしている

噺家さんです。、勿論、晩年ですけれどね。その時は「今戸焼」でした。

この師匠なかなかモダンなとこがありましてね、噺のなかに時代のはやり言葉

などを入れておりまして、当時では映画では「エデンの東」というのを。噺の

中にギャグとして入れておりました。これがまた良くてね。今の噺家さんには

失われてしまったものがありました。

昔の良き時代の、四谷とか本郷の寄席が端席といわれ、下町の寄席が本筋で

あった頃の時代の寄席に出ていた噺家さんの雰囲気を感じさせるものがありましてね、その時代に「間に合わなかった」世代としては貴重な噺家さんですよ。

その時代を引き継いでいる噺家さんは、今では談志師匠、志ん朝師匠、

円楽師匠、小三治師匠とか、もちろん「小さん師匠」は別格ですけど。

上方では、米朝師匠、文枝師匠、仁鶴師匠、それに「ざこば師匠」、鶴光師匠

などなど。南光師匠も頑張っている。小朝師匠は必死になって、その時代を

越えようとしている。文治師匠はその境目にいるような気がしてならない。

だから時々懐かしさの中で聴いている。失われてしまった寄席を忘れないように

それが中間の世代の特権としてね。

 

 

 

九代目 桂 文治

三年目 

九代目 桂 文治

好きと怖い

九代目 桂 文治

片棒

九代目 桂 文治

今戸焼

九代目 桂 文治

お菊の皿

九代目 桂 文治

引越しの夢

九代目 桂 文治

俳優の命日(今戸焼)

九代目 桂 文治

小言小兵衛

 

「引越しの夢」………………………という噺

 

ある商家の話でしてね、大店になると旦那以下、大番頭、中番頭、小番頭、それに奉公人は数十人もいたという。一流の大店では、旦那より、大番頭の方が給金は多かった

というから、番頭の実力はすごいものです。

さしずめ、旦那は代表取締役社長、番頭は取締役営業部長とでもいいましょうか。

商売については総てを掌握していたのが番頭です。

通常は店に住みこみなのですが、「通い番頭」と言って、店に通勤してくる番頭もあった

ようで、こうなると超一流と申せましょうか。

奉公人は二回で寝起きするというのが一般的でしょうが。女中さんたちが多いと、

まさか隣りどおしの部屋にするわけにもいかず、一階を男、二階を女部屋に分けて、

簡単には行き来ができないようにしたようです。風紀が乱れますからね。

男性の奉公人で四十代でもまだ独身という例は普通だったようです。

江戸は女性が少なくて、男性:女性=8:1の割合だったようですから、結婚の相手を

探すのは大変だったでしょうね。娘一人に婿八人とは、よく言ったものです。

そんな商家ですから、奉公人達の間で恋愛ざたなどは当然あったわけです。

それを野放しにしていたのではと、おかみさんがしっかりしているお店では女性の

奉公人の管理をきっちりしていたようです。夜になると二階に上がる梯子を外してしまう

というようなことでした。

  

そんなある大店のこと。女中さんの手が足りなくなったということで、「千束屋」いわゆる

口入れ屋に小僧さんをやって女中さんを雇うことになった。何故小僧さんを使いに出したかというと、大人のまして男の奉公人をやったのでは、美人の女中さんを選ぶに

決まっているからで、それでは騒動の元を作るようなもの。小僧さんに余り美人ではない

女中さんを連れてこいという、おかみさんの命令があった。

それではたまらないと、奉公人達は小僧さんに小遣いを渡して、美人の女中さんを

連れてくるようになどと裏工作をしたりしている。

そんな或る日、新しい女中さんがやってきた。この人が器量の良い人で、店の男達は

気がきでならない。なんとか気を引こうとするがダメ。ある晩、夜中に忍び込もうと

ある男、すっと起きると二階に行こうとする。もちろん、二階に上がる梯子ははずして

ある。思案の末、台所の蝿帳をつたってあがろうと考えた。しかし、商家の台所の

蝿帳などは吊ってあるから、体重に耐えられず、片方が落ちてしまう。しょうがないから

暗闇の中で蝿帳の片方を担いで途方にくれていると、同じようなことを考えている男が

やっぱり台所にやってきて蝿帳を使って上がろうとするが、もう一方の端も落ちてしまう。

こうして二人の男が蝿帳を担ぐ格好になった。困り果てている所にお上さんが物音に

気付いて台所にやってきた。

「まあ。夜中にごそごそ音がするかと思ったら、お前達何やっているんだい。」

「へい。夜中に引っ越しの夢を見ました。」

 

 

 

 


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