桂 文枝 師匠編


 

上方四天王の一人、桂 文枝師匠の登場と相成りました。

惜しくも亡くなられてしまいました。文枝師匠のような芸は継承が難しく新しい芸人が現れる

ことは無いでしょう。しかしながら今では染丸師匠に期待するのみです。

音曲噺というと、やはり上方ですね。上方は芸どころです。

落語の中に「はめもの」といういわばBGMみたいなものが流れます。

都都逸だったり、地唄だったり、カッポレだったりしますが、上方らしさを

感じる落語のジャンルの一つですね。昔は「音曲師」という芸人がいて、

高座を賑わしてくれていました。そうですが…・席亭はみておりません。

今は三亀松師匠のような粋談をやる芸人が少なくなってしまいました。

寄席では「色もの」と呼ばれて落語の合間にでてくるような芸ですが、

席亭の世代では三亀松師匠は「間に合っておりません」

紫朝師匠を幾度か拝見した程度です。

文枝師匠の音曲噺では「軒付け」や「立ち切れ」船弁慶」でしょうか。

特に「船弁慶」は秀逸でして定評があります。

「三十石」や「蛸芝居」も音曲噺のジャンルでしょうか。

上方四天王は夫々特徴があります。文枝師匠は音曲噺。松鶴師匠はお好きな

酒飲みの噺(一人酒盛り、あとひき酒、一助酒などなど)、春団治師匠は

粋な噺、米朝師匠は正統派というところでしょう。

東京落語にも小朝師匠や正雀師匠のような音曲噺を得意にしている噺家は

いらっしゃいますが、上方では文枝師匠や染丸師匠などが代表なのでしょう。

最近は「はめもの」といわれるものにも、現代の曲が使われることもあります。

中にはクラシックが使われる新作もあります。

上方の舞台は江戸と違って広いものですから、人情噺などをしんみりやって

いると目立たない。見台や音曲で華々しくやらないと受けないというわけで。

但し、ただ騒いでいるだけでは音曲噺にならない。

浄瑠璃や日本舞踊、地唄、三味線などの素養が必要なのです。ですから

時間がかかります。じっくりと芸を磨いて高座にかける。素人芸では

どうにもならない噺のジャンルなのです。

特に「三十石」という噺は途中に船頭の唄が挿入されておりまして、ここが

噺家の聴かせどころとなっております。上方では松鶴師匠がライフワークと

しておりましたし、勿論文枝師匠もそうです。桂  枝雀師匠も高座にかけて

おります。東京落語では、やはり円生師匠の高座が耳に残ります。

  

桂 文枝

船弁慶

桂 文枝

猿後家

桂 文枝

三枚起請

桂 文枝

たばこの火

桂 文枝

軒付け

桂 文枝

宿屋仇

桂 文枝

親子茶屋

桂 文枝

立ち切れ

桂 文枝

景清

桂 文枝

百年目

桂 文枝

高津の富

桂 文枝

口入屋

桂 文枝

京の茶漬け

桂 文枝

猫の忠信

桂 文枝

おたね源八鳴門心中

桂 文枝

鍬潟

桂 文枝

悋気の独楽

桂 文枝

三十石

桂 文枝

くしゃみ講釈

桂 文枝

愛宕山

桂 文枝

宿屋の富

桂 文枝

蛸芝居

 

「軒付け」…………・という噺

 

義太夫・浄瑠璃の好きな素人連中、仲間を集めてはへたくそな芸を語りあって

いる。しかし物足りなくなって、街角の家々の前に立って一節うなるという

軒付けをやり始めた。けして人様に聴かせられるようなものではないが、

中には親切な人がいて、「鰻の茶漬け」などというご馳走を戴いたなんて

いうことも。またこれを目当てに軒付けをやろうなんている輩が加わったから

話は収拾がつかなくなってくるというわけで。

ある日こんな連中が集まって軒付けをやろうということになった。

ところが三味線担当の男が来ない、そこで急遽、最近三味線を始めたという

紙屑屋の天さんに頼む事にした。この天さん弾けるのはたったの三つ。

「テンツテンテン」「チリトテチン」「ツンテンシャン」だけ。

これで浄瑠璃の伴奏をやろう言うのだから、無茶な話ですよね。

語るほうも目茶苦茶ですから、軒先でやられる方はいい迷惑でしてね。

中には子供を寝かしつけている最中にけたたましい物音がしたので、子供が

泣き出す始末。親に滅法どなられてな、にげだす始末。

例のごとく、鰻の茶漬けだけを目当てに付いてくる男もおる。

中にはシーンとして何か聞き入っているような家があって、これ幸いにと

唸っていると、目の前に貸し家札が下がっているという具合で、 

散々なめにあって、最後はいつもの長屋のばあさんのところに上がるという

ことになる。このばあさん、耳が遠いので騒音が気にならない。

「好きなだけ、おやりなされ!」と、涼しい顔でしてね。

自分は、御新香と味噌汁で夕飯を食べ始めた。しばらくすると、

強烈なセリフを残してオチとなる。

「お宅らうまい! 何やしらん、さっきから味噌汁の味が変らん。」

   

音痴は味噌汁の味も変えてしまうということでして、

さすがに、そこまではひどくなかったようですね。


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