柳家 権太楼 師匠編

右朝師匠と同期である。学生時代から落語をやっていてよきライバル
なのだろうか。権太楼師匠は先代に師事したわけではなく、名前を
買ったということである。なんでも先代の権太楼師匠は晩年は病に
倒れ不幸な時期を過ごしたようだ。若い頃は売れた芸人だったらしい。
当代の権太楼師匠は個性的な噺家と評価している。
東京落語における「枝雀師匠」的な存在に近いといおうか。
客に対応できる噺家でもある。よく「客をいじる」というが、
近頃のTVタレントは視聴者をバカ扱いすることでウケを狙う。
視聴者も悲しいことにそれに甘んじているというわけ。
談志師匠が客に悪口を言うが、TVタレントのそれとは本質が異なる。
芸を客観的にしか観ようとしない客に抵抗しているのだ。
昔の寄席は違っていたという。噺そのものが庶民の本音であり、堂々と
本音を語っている芸があった。志ん生師匠の芸は本音であり、その
描写はリアルなのだ。練り上げた描写ではない。
噺家は「人間努力すれば偉くなれる」なんて絶対に言わない。
「いくら努力しても偉くなれないことの方が本当で、努力しなくても
偉くなれることもある」なんて言っている。本音だ。「だからと
いって、努力しなければそれまでだ」ともね。
権太楼師匠も、真の意味で「客をいじれる」。だから寄席芸がいい。
寄席で聴きたい。
昔の噺家のにおいを残している芸人だ。
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柳家権太楼 |
ちりとてちん |
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柳家権太楼 |
壺算 |
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柳家権太楼 |
提灯屋 |
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柳家権太楼 |
真田小僧 |
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柳家権太楼 |
佃祭り |
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柳家権太楼 |
火焔太鼓 |
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柳家権太楼 |
天狗裁き |
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柳家権太楼 |
くしゃみ講釈 |
「佃祭り」・・・・・・・・・・・という噺
人情噺のジャンルに入るのだろうか。佃島のお祭りを題材にした噺である。
江戸時代の佃島は今とは大違いで、離島であった。船で渡る島である。
今のような超高層ビルやマンションは無く、漁村である。
威勢のいい漁師や船頭がたくさんいた。だから祭りも威勢が良く、江戸庶民は
毎年楽しみしてものだそうである。
この噺は多くの噺家がやっているが、馬生師匠のものが耳に残っている。
権太楼師匠のものも秀逸であろう。
その祭りが終わって見物客が家路につく。その終い船に乗ろうとしたのが
次郎兵衛さん、乗ろうとすると袂を引っ張る女がいる。振り切って乗ろうとする
が、戻されてとうとう船に乗り遅れてしまう。終い船だからさあ大変。
なんなんだこの女はと見ると・・・「旦那様お持ち下さいまし。どうか私共の
家に来て下さいまし。後生ですから、どうか」と言う。
見覚えのない女だから不思議そうにしていると、「旦那様はお忘れになったの
でしょう。五年前、大川から身を投げようとしていたところを助けていただいた
者です。お金に困っていたのを五十両もの大金を恵んでくださり、お陰で今は
良い亭主に出会い幸せに暮らしております。その時は名も聞かないままで、
亭主に、どうして確かめなかったのかと叱られております。今偶然にも
お見かけをしましたので思わず・・・」
「そうか貴方があの時の人だったのですか」、「はい」
「仕方がありません。終い船が行ってしまったのですから、お言葉に甘えて
お伺いするとしましょう」「ではどうぞ」
女の家に行くと早速、酒でもてなされる。亭主が留守なのに酒を飲んでいるのは
まずいと思いながらも過ごしていると、亭主があわてた様子で帰ってくる。
「てえへんだぜ。終い船が沈んで浜は死骸の山だ。すぐに着替えていかなくちゃ
いけねえ。おいその人は誰だい?」
「いつもあんたに話している、あの旦那様ですよ」
「そうかい、とうとう会えたのか。へいあっしがざっかけなもんで、こいつの
亭主です。大恩人の旦那様の名前も聞かずにいたというんで、叱っていたん
で、しょうがないからああやって神棚にお灯明を上げて毎日拝んでおりやす
旦那様、こう言っちゃなんだが、貴方様のお慈悲でこいつが助かり、
それが回りまわって終い船に乗ろうとした旦那様を引き留めて助けることに
なりやした。これも旦那様の人徳でしょう」
次郎兵衛さんこれを聞いて身の毛がよだった。「情けは人の為ならず」という
ことか。
こんな騒ぎをよそに、次郎兵衛さんの帰りを待ちわびている留守宅は、船の
事故を聞いて落胆していた。なにわともあれ通夜の準備をする留守宅。
一方、次郎兵衛さんの方は家族が心配していることを思い、船を出してくれる
よう頼む、がそこは河岸の決まり、おいそれと船を出すわけにはいかない。
少し時を過ごしてきっと送っていくからといわれあきらめた。
女の亭主に送られ自宅近くまで来た次郎兵衛さん、近所にお弔いがあることを
知る。ところがどうやら自宅だと解っておおあわて、家族の誰かが不幸にでも
と、自宅に飛び込んだ。驚いたのは家族や近所の連中である。死んだはずの・・・
次郎兵衛さんが立っているのだから無理もない。
わけを話す次郎兵衛さん。「次郎兵衛さんの徳がそうさしたんだなあ。」
この噺にはオチはないが、ノンフィクションとも思える噺だ。
女の亭主が実に良い。江戸っ子かたぎ、海で暮らす男の気持ちがよくでている。
職人気質というものがあった。あえて過去形でいう。
あの亭主は旦那の家の近所まで送り届けている。近所まで・・・ね。
わけは旦那の家を覚えるため。近所までなのは、自分の身分をわきまえている
から。この後きっちり夫婦してお礼にいくことが予想できる。
この噺には江戸庶民の“仁”の世界が描かれているのである。