上方落語「べかこ」

上方落語らしいタイトルですよ。「べかこ」ってどういう意味なのかわかりませんけれどね。
「べっかんこ」という仕草がありますよね。「あかんべー」というやつですよ。どうやらそれらしい。
さて、ここに泥丹坊堅丸《どろにぼうかたまる》という噺家がおりました。
地方を巡業していくような噺家ですから余り売れているとはいえませんようで。
ある宿屋に泊まりこみましてね、湯治客を相手に商売をしているのですが、ある時にお城から呼び出しが
かかります。
お城のお姫様が病に臥せっているそうで、お慰めをしようということになり、噺家でもよんだらどうかということに
なったようです。
これはね、たいそう儲けになるでしょうから、喜んで出かけていきますよ。
御用人からは、余り陰気な噺はいけないから面白い噺をするようにとか、猥褻な噺は姫の手前避けるように、
大きな声で陽気にやるようにとか注意されてね。
何か用意するものはないかというので、見台が必要ですというのですがね、そんなものはないので代わりに小机
みたいもの、湯のみ茶碗に茶を用意させたりします。
すると御用人が話の種にでもなろうから御殿を案内してやろうと言い出します。
それではお願いしますと方々案内されます。
松の間に竹の間、梅の間、それぞれ立派な桜や竹や梅が襖に描かれております。
一通り案内されたあと、休憩の間にひかえておりますと、隣の部屋には腰元たちがおりまして、
「まぁ。芸人さんというのだから、さぞや二枚目の男ではないかしら、みてみたいわねぇ。」てんで、襖をちょっと
開けて覗きます。
泥丹坊堅丸という噺家は顔のほうは、「ちんがくしゃみ」したような顔でしてね。ま、噺家らしいといえばそうなのですが
腰元達は噴出してしまって大騒ぎです。
噺家のほうは内心穏やかではありません。段々腹が立ってきましてねぇ。
腰元達に向かって思わず・・・・・「べかこ」とやってしまいます。
このようなものを見たことが無い腰元達ですからね、もうてんやわんやの騒ぎになって逃げ出すやらで、噺家が
追いかけたりしたものだから大騒動になってしまいます。
とうとう御用人の耳に入ってしまい、けしからん奴と明朝一番鳥が鳴くまで柱にくくりつけられてしまうのです。
「姫が臥せっておられるような時に城を騒がす不届きな者」というわけですな。
一人ぽつんとしばられているわけですから次第に心細くなってしまいます。
「一刻も早く一番鳥が鳴いて夜が明けないかなぁ」と思いますよ。
鶏の声を真似ようかとも考えたのですが、そんな芸はできません。
回りを見渡してみると衝立に「東天紅」の絵が描いてあります。
「のう、東天紅や心あるならばどうか一声鳴いてくれないか」と頼みますとね、さすが狩野派の画家が書いた絵です。
衝立から抜け出てきました。「抜け雀」みたいなものですね。
「ああこれで助かった。東天紅と鳴いてくれぇ。」と言いますと、何を思ったのか
一声・・・・・・・・「べかこ・・・・・・・・」
この後、噺はどう展開するのでしょうかねぇ。
あの噺家、「べかこ」であれだけ騒ぎを引き起こしたのにこりぬ奴じゃと、もっときつい罰を受けたのでしょうかねぇ。