八代目 三笑亭 可楽 師匠編

いよいよ可楽師匠の登場と相成ります。可楽師匠の熱烈なファンとおっしゃられ
る方々は非常に多いと聞いておりますが、芸風はどちらかといえば、地味な方と
言えましょう。
特に、有名人の方々にファンが多かったと聞いております。
可楽師匠は通好みの芸風だったようです。可楽師匠なしには、夜も日も明けぬ
などというファンがおられたようですね。
一方、一般の方々にはもう一つ受けが良くなかったようでしたね。
地味な芸風が邪魔をしていたということでしょうか。
可楽師匠と言えば、何と言っても「反魂香」でしょうね。亡くなった恋女房の
霊を呼び出すために、反魂香という香を焚くという噺でして、実にいいですよ
ね。夫婦の情をよく表していて好きな噺です。「甲府い」という噺にも、真面目
な若い夫婦がでてきますが、「文違い」などという遊廓の世界とはまた違った
庶民の姿を表しております。
他には何と言っても、「らくだ」でしょうか。この噺は上方の松鶴師匠が得意
ネタにしておりましたが、可楽師匠のものもいいですよ。さらっとやって
おられるのですが、あの強烈な談志師匠の「らくだ」とは違った面での演出を
されております。
でも席亭が一番好きな演目は「二番煎じ」です。席亭の川柳に・・・・
大晦日 可楽と鍋を つつきおり
というのがありまして、番小屋で鍋をつつきながら一杯やっている人たちの
姿・情景がいいですよ。寒い晩に奉公人は寝ているのに「火の回り」を
やっている自分を嘆く大店の旦那や、謡の先生、宗助さん、などなど登場人物
の面白さは、この噺の真髄でしょう。
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八代目 三笑亭可楽 |
甲府い |
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八代目 三笑亭可楽 |
富久 |
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八代目 三笑亭可楽 |
うどん屋 |
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八代目 三笑亭可楽 |
らくだ |
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八代目 三笑亭可楽 |
王子の狐 |
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八代目 三笑亭可楽 |
文違い |
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八代目 三笑亭可楽 |
巌流島 |
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八代目 三笑亭可楽 |
妾馬 |
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八代目 三笑亭可楽 |
船徳 |
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八代目 三笑亭可楽 |
反魂香 |
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八代目 三笑亭可楽 |
品川心中 |
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八代目 三笑亭可楽 |
芝浜 |
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八代目 三笑亭可楽 |
二番煎じ |
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八代目 三笑亭可楽 |
今戸焼 |
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八代目 三笑亭可楽 |
たちきり |
「うどん屋」・・・・・・・・・・・・・・という噺
江戸の冬は今と比べてたいそう寒かったようですね。雪もかなりふったようで
して、夜商人(よあきうど)という商売はきつかったようです。
上方落語にも「上燗屋」という屋台の一杯飲み屋の噺があります。
「うどん屋」などもそうでして、いわゆる「夜なきそば屋」みたいなもの。
街角を歩いてあったかいうどんを売り歩くという商売。「時そば」などに
出てくる商人も夜商人ということ。
この夜も「うどん屋」さん、とんと売れずに街角を渡り歩いていたが、向こう
から来た酔っぱらいに捕まってしまう。この酔っぱらい、うどんなど食べる気は
まるでなく、さんざん絡んだあげくに帰ってしまう。なんのことはない、ただ
暖まりたかっただけのことでして。今晩は商売にならないとあきらめかけて
いると、大店の裏口から男が呼んでいる。行ってみると、鍋焼きうどんを一杯
という注文。ところがその男。かすれた声で回りを気にしている様子。
うどん屋さんは、「ははあ、これは奉公人が夜中にこっそり、うどんを食べて
暖まろうとしているんだ。まずは先方がきて味をみて、うまかったら大勢で
注文しようという魂胆だな」と合点した。気を入れてうどんを作って差し出す。
うまそうに食べ終わると、かすれた声で「うどん屋さん、いくら」
うどん屋さんも、そーと、小声で「へい、十六文で」「そうかい、はいよ」
「へい、ありがとうございます。」「ところで、うどん屋さん。」。うどん屋
は追加の注文がくるのかと期待していると・・・・・
「あんたも、風邪ひいたの・・・・・」
「たちきれ」・・・・・・・・・・・・・・という噺
人情噺である。哀れな芸子さんの物語です。「立ち消え」とか「立ち消え線香」
などという題をもつ。上方噺ですが、江戸落語に置き換えてもおかしくはない。
大店の若旦那、案の定、遊びが好きで家の金を持ち出してはお座敷遊びに
ほうけている。親旦那の堪忍の袋も切れて、とうとう親戚連中を集めて親族会議
この若旦那の処分を決めようという。乞食にさせようとか、漁師にさせようとか
お百姓にさせようとか、色々あったが、番頭さんの計らいで百日燗の蔵住まいと
いうことになった。倉に押し込めて遊びに行けないようにするというわけ。
若旦那が足しげく通いつめたのは、芸子の「小糸」さん。年も18才で色白の
細面で美しい人です。(合ったわけではないのですが、噺のイメージでして)
若旦那は前もって「小糸」さんと芝居見物の約束をしていてのですが、
奇しくもその日が若旦那が蔵に入る日となってしまった。
「小糸」さん、朝早くからきちんと仕度して若旦那の迎えを待っている。
時間になっても来ないので手紙を書いて若旦那に届ける。若旦那は来ない。
何度も何度も手紙を書いては届けるが、一向に来てくれない。今日も来ない。
明日も来ない、次ぐ日も、次ぐ日も・・・・とうとう八十日たってしまう。
一方、手紙を受け取ったお店のほうですが、色町からの手紙ですから蔵住まいの
若旦那に渡すわけもなく、引き出しに放り込んでおくだけでした。
百日間の蔵住まいも終わりでてきた様子を見て安心した番頭さんは、最後に来た
手紙を若旦那に差し出した。文面を読んだ若旦那は蔵住まいの前にかけた願の
お礼に行くと言って出かける。実はこの手紙にはこう書いてあった。
「・・この手紙が届く頃には私はもう・・・」
若旦那があわてて芸妓屋さんにやってきて「小糸」さんに合わせて欲しいと
切り出した。店のおかみが応対してくれて通されたのが仏壇の前。
「若旦那。「小糸」にあっておくれやす。」ええ、どうしたんや」
「小糸は亡くなりました。」「亡くなった。・・・どうしたんや。何があったんや」
「どうした、なにがあったといえば、若旦那、あんさんが殺したといわないけ
しません。」「なんでや、なんで、わいが小糸を殺すんや。」
「わてなあ、百日間の蔵住まいをしていたんや。」
「そうどすか、・・ようわかりました。蔵住まいをなあ。」すっかり合点をした
女将は若旦那を仏壇の前に座らせて、「若旦那、これが小糸だす。拝んでやって
おくなはれな。」
「そうか、小糸はこんな姿になってしもうたのか。」
「小糸はなあ、若旦那と芝居を見に行くのを楽しみしておりましてん。
あおの日も朝早くから支度をして待っておりましたが、時間になっても若旦那
はきいしまへん。心配になって小糸が手紙を書くわといいましてな。
色町から手紙を出すなんていけへんな、と思いましてんけど、あんまり小糸が
可哀相なので、手紙を出させました。何本書いても返事はきいしまへん。
その日はあきらめて、翌日も、その翌日も手紙を書いては出しましてんが、
とうとう……・・。小糸は寝たきりになってしもうて。
あの日も、昼ごろおきてな、おかあちゃん三味線ひきたいからもってきて。
いううてな、布団から起こしてあげてシャンとあわせてな。おかあちゃん
しんどいから横になるわ。そういうて寝かした時に…・最後がきましてなあ。
ほんに、かわいそうなことをしましたわ。」
「そうか、そんなことがあったんか。小糸。堪忍してや。わいなあ、もう二度と
所帯はもたへんで。小糸のことを思うてな。もう所帯はもたへんで…」
「若旦那。よう言うてくだはんなった。これで、小糸も浮かばれますわ。」
若旦那、仏壇にお線香をあげた。まわりの芸子衆も皆泣いてしまった。
と、その途端、小糸の三味線がひとりでに曲を弾き始めたのである。
あわれを誘う曲が流れる。若旦那はたまらなくなってしまうし、まわりの者も
皆泣く伏してしまう。
やや、時がたってプツリと音が途切れてしまう。
「若旦那。もう小糸は三味線ひけしまへん。ちょうど線香が立ち消えました。」
このオチを理解していただけますでしょうか。
芸子さんをお座敷にあげてお遊びをする時間は決まっておりました。
今でもそうでしょうけど。当時は線香が一本燃え尽きる時間を一区切りとして
おりました。時計のない時代ですから、これで時間を計ったのでしょう。
客はもう少し遊びたいときには、「お直し」といって追加できたのです。
勿論、お直しの度に料金が掛かるのです。
どうやら小糸さんにはお直しできなかったようですね。
それにしても哀れな噺でしたね。