落語奇談「茶碗騒動」

プロローグ:
席亭さん。江戸の京都にいます。目的は静香ちゃんに逢うためですが、京都の街を散策することもありました。
現代では何度も京都には行っていますが、江戸の京都は久しぶりです。このシリーズでもありますので、お読み
いただきたく。いつものようにガイドさんにお願いしてまずは清水寺から話は始まります。
清水寺には何度も行っているので、お参りをすませ舞台から京都の街並みを眺めてから坂を降りてきました
音羽の滝の前に茶屋がでているので、一休みしていると商家の旦那風の老人が茶碗を不思議そうに見ている。
近くには油売りの男がそれを見ています。席亭さん老人の隣りに移りましてね。
「失礼ですが、貴方様は茶金さんではありませんか?」
「そうですが。貴方は?」
「江戸から来ております。席亭と申すものです。拝見しておりますと先ほどから不思議そうに茶碗をご覧になって
おられますが、茶屋で使っている普通の茶碗のように思えるのですが。」
「はい。そうなのですが、傷も無いのに茶が漏れてきますのでな、どうしてなのかとなぁ・・・・・・」
「はぁ。そういうことですか。見せていただいてよろしいですか?」
「どうぞ。」
「なるほど、底から漏ってきますねぇ。素焼きの部分だからでしょうか?」
「そんなことでもないようなので・・・・・不思議な茶碗ですなぁ。」
「おい亭主ちょっとこっちにきてんかぁ。」
「へい。なんでしょうか。」
「あのじいさんが持っている茶碗なぁ。もろてもかまわんか。」
「あんな茶碗。二束三文のものやけど、あんたあの老人が誰か知っているのかいな。」
「茶金さんやがな。目利きで有名ななぁ。」
「そうです。あの人が品物を見て首をかしげただけで百両はくだらないというものや。さぞやあの茶碗も高い物に
違いません。あげるわけにはいきません。」
「なんや知ってるのかいな。人が悪い。」
「あんさんこそ。」
「茶金さん。その茶碗、わしにもみせてもろてよろしいか。」
「はいはい。どうぞ。珍しいですよ。」
茶金さんは帰って行きました。
「よっしゃ。亭主。三両だそうじゃねぇか。売ってや。」
「だからだめですって。」
「ならこの茶碗投げて割ってしまおうか。」
「そうかぁ。ほなしゃあないわ。持っていき。どこで損するかわからんわ。」
油屋は早速、茶金さんの店に茶碗を持っていきます。
「ちょいとごめん。茶金さんに見ていただきたいものがあるのですがな。おられますか。」
「どんな品物でしょうか。」
「これなんやがな。」
と、出したのがあの茶碗です。
「失礼ですが、こn茶碗はただの清水焼でなんの値打ちもないものです。」
「いやぁ。番頭さんではわかりません。茶金さんに見てもらいたい。」
「旦那にお見せするような物ではございません。どうぞお引取りを願います。」
「なんやと!はよ茶金さんをよばんかい!」
「これこれ、店のほうがえらいやかましいやないか。どうしたんや。」
「はい。お客さんが価値のない茶碗を持ってきて、旦那様に見せてほしいというのです。二束三文の茶碗です。」
「これっ。いかなお客様であってもきちんと応対をしなければいけませんよ。でましょう。」
「あっ。茶金さんの旦那。どうですね、この茶碗を見てやってください。いい物でしょ。」
「どれどれ・・・・・・・・・・・・・やはり普通の清水焼の茶碗ですなぁ。どうされました。」
「えーーーーー?。先ほど茶金さんが不思議そうに見ていた茶碗ですよ。」
「ああ。あの茶碗でしたか。いえね、ひび割れもないのに底から茶が漏れてくるものですから・・・不思議な茶碗だと
思って見ていたのです。」
「そんなぁ。これを茶店の主人から三両で買ったんですよ。茶金さんが不思議そうな様子をしたのでね、そぞかし
価値があるものかとふんだのですよ。・・・・・ああ大損だぁ。」
「油屋さんでしたね。あそこにいらしたのですか。そうですか・・・・・・席亭さん、いらしてくださいな。」
「はい。油屋さん、私を覚えていますか?茶店で茶金さんと一緒にいたものです。」
「ああ、あの時の・・・・・・・」
「ええ。事情はわかっています。油屋さんは油を売るのが商売でしょ。茶碗を売って儲けようなんてのはいかがな
ものでしょう。なんてね、初対面でお話することではないのですが。」
「油屋さん。このお方は江戸では高名な“心学”の先生でしてな。“べにらぼうなまる”という名前をもって
おられる。私も商売人、貴方もそうです。骨董について素人の貴方が手を出してはいけません。心して下さい。
しかしながら私の信用を信じて損をしたことには忸怩たるものを感じます。ここに十両あります。これをもって
江戸の妻子のところにお帰りなさい。よろしいかな。」
「油屋さん。そうなさいまし、茶金さんの好意を無にしないようにしてくださいな。」
「はい。席亭さんとやら江戸でまた会えますでしょうか?」
「ええ。通りで小僧さんにまき水をかけられたとかで怒ってはいけませんよ。おかみさんとも喧嘩をしないように
それに親孝行を心がけて下さい。」
「どこかで聞いたような話ですな。わかりました。」
油屋さんは江戸にかえったようなのですが・・・・・・・・・・
一方、茶碗のほうはどうなったかというと、お殿様の耳に入りましてね、
「これ茶金。なにかめずらかなるものがあるか。あればみせてみせい。」
「はい。ここに少々変った茶碗がございあます。」
「ほう、みせてみよ。・・・・・・・・・・・・・なんだ、べつにどうということはないではないか。」
「お茶を注ぎください。」
「よし。そそいでみよ。・・・・・・・・・・・おや、なにやら底から水が漏るのう。はてな?・・・・・・・・」
さぁそこから殿様が箱書きをつけたから、この茶碗いっぺんに三百両という値段がつきました。
江戸に帰ろうとしたはずの油屋さんがどこからかこの話を聞き込んできた。
「ごめん。この間の油屋だす。ちーと話があるんで茶金さんよんでんか。」
「おやおや、油屋さん。江戸に帰ったのとちゃいますのか。」
「茶金さん。少し商売があくどくはしませんか。わしに十両でこうておいて、なんと三百両の値がついたそうやな。」
「はいはい。そうです。ですからな、店の者に油屋さんを探しに行かせましたんや。ようきてくれはった。
ここに百五十両あります。どうぞ持って行ってくれなはれ。半分は頂きます。」
「茶金さん。あんさんは偉い方やなぁ。こんなもんにごまかしもせずに、百五十両という大金をくれなはる。
えろうありがたいことで・・・・・」
「油屋さん。今度こそ江戸に帰るのやで、いいか変な気を起こしたらあきませんよ。」
「わかっとりま。ほんまにおおきに。ほな失礼させてもらいます。」
「油屋さん。拝見してましたよ。大儲けでしたね。」
「席亭さん。いたんですか。見られちゃいましたか。内緒ですよ。」
「茶金さんのおっしゃったように江戸に帰らなくてはいけませんよ。おかみさんも待っているのでしょ。」
「はい。そうします。こんなうまい話は二度とあるものじゃない。」
「そのとおりです。ではおきをつけて。」
一攫千金というのは人間の欲ですが、油屋さんの心にもこれが芽生えましてね。江戸に帰ればいいものを二匹目の
ドジョウを狙ってしまいました。茶店の茶碗で三百両なので、もっと大きな茶碗で漏るようなものを探せば千両は夢ではないと考えた。手分けして京都中を探し一抱えあるようなものを見つけ出した。みこし仕立てにして茶金さんのところに運び込んだ。
「どうでぇ、茶金さん。この大茶碗ひびが入っているわけじゃねぇけど漏るんだ。調べてみてくんな。千両はする品物
だよ。ええ・・・・どうだい?」
「油屋さん。大きければいいというものではないのですよ。これも全く価値はないのです。」
「そんなこと言ってまたどこかで大儲けしようって魂胆だろ。」
「いやいや。もうあのようなことは二度とありません。お帰りなさいな。」
結局、油屋さんは三百両の元手を無くしてしまったというわけでね。強欲はいけないということですな。
席亭さん、油屋さんとわかれましてね、京都から大阪の散策に出ました。途中色々な光景に出会いましたので
ところどころ披露してみましょう。
ある寺の前を通りかかった時のこと。本堂がやけに賑やかなので中を覗いてみるとね、若い者が集まって博打を
やっている。「丁半」ではなく、「ちょぼいち」というもので、サイコロひとつを壷にいれて目を当てるという単純なもの
ですが、壷がないらしく茶碗でやっている。「チンチロリン」ともいわれる博打ですね。
「昼日中から若い者がこうして集まって博打三昧とはみっともねぇ。ちったぁ真面目に働く気にはならねぇのかい。」
「おじき。世の中こう不景気じゃしょうがありませんよ。リストラ・派遣切りとねぇ。こうやって遊び銭を稼ぐのが
精一杯ですよ。」
「そうかい。まあ無理もねぇやなぁ。で、場はどうなんだい?」
「胴元が次々につぶれてねぇ。どうにもならねぇ具合でさ・・・・・・」
「そうか。じゃぁ俺が胴をとろうじゃねぇか。」
「そうしてもらえるとありがてぇ。」
「ようし・・・・・・だがな俺も歳だ。目も利かなくなってなぁ・・・・まぁ、どうなるかやってみるか・・・いいかい。入るよ。」
勝負てんで、茶碗を伏せたのはいいのですが、サイコロが外にこぼれている。
「いいか。勝負は中だ。はってくんな。」
見ると茶碗の外のサイコロはピンですよ。
「おい。おじきも耄碌したもんだぜ。ピンがでっちゃてるよ。いいのかいこれでさぁ・・・」
「いいに決まってるだろ。見えてんだぜ。当たりにまちげぇねぇ。有り金はたいてなぁ・・・・」
「おおそうだ。」
てんで、みんなピンの一点ばりときた。
「なんでぇ。ピンばかりじゃねぇか。ほかの目がでたら胴元の総取りだ、いいのかい?」
「今日はピンがでてねぇんだ。そろそろくるころなんですよ。なぁ、みんな。」
「そうか。いいか。勝負は中だ。いいな。」
「へい。」
「それじゃ、このピンは仕舞わせてもらおうか。俺のみるところ中は、ぐ(五)だ。いいな。」
「ええ?しまうんですかい。」
「勝負は中といっただろ。こいつは看板だ。」
「おじき、そりゃずるいや。」
「看板につられてはった。おめぇらがあめぇということだ。勝負!・・・・・・・・ぐ・・・だ。」
「ああっ。有り金とられたよ。とほほ・・・・」
「馬鹿やろう。おめぇらの金を巻き上げてどうこうしようってわけじゃねぇ。いいか博打てなこんなものだ。おめぇらの
考えることなんざ子供みていなことよ。いいか。真面目に働け。博打なんざやめろ。わかったか。」
「へい。おじき・・・わかりやした。」
てね、身にしみた奴はいいのですが、なかには本当の馬鹿がいてね。これを真似して儲けようなんて奴がいるもので
看板のピンまではよかったが、茶碗の中のサイコロまでがピンだったという失態で大損したという・・・・・・。
さて席亭さん寺を巡りましてな、赤毛氈の茶屋で抹茶などを飲んでいると。そばで猫がいましてな、食事をしている。
えさの入った茶碗を見るとなんとこれが「高麗の梅鉢」で高価なものです。猫のこととて割ってしまえばもったいない
わけでしてね、
「ご主人。この猫が使っている鉢のことはわかっていらっしゃるのかな?」
「はい。高価なものです。猫に使わせる茶碗ではないのですが・・・・・」
「ほう・・それを知っていてなぜ使っているのですか?」
「いえね、旦那様。面白い話で、これの価値を知っている人が、ははぁ、主人は知らずに使っているのだなぁと
思うのでしょうね。猫を譲ってほしいと言います。こんな猫はどこにでもいますので、猫をかわいがっていただける
ならと差し上げるのですが、ただでは申し訳ないと三両ほどおいて行きます。普段使っている茶碗と一緒にという
ことで持って行こうとされるのですが、この茶碗は「高麗の梅鉢」で差し上げることはできませんと言いますと、
猫だけ持って帰られるということに・・・・すなわち儲かるということでしてな。」
「ご主人も人が悪い。・・・・・・・いや、人の欲というものを見抜いておられるようですな。でもご主人も儲けるという欲が
おありになるようで、お気をつけくださいまし、ではこれで失礼いたします。」
席亭さん、随分偉そうなことを言ってしまったものだとね、自戒しましたよ。
ある寺の門前に出ますとな、おもらいの人達が並んで座っています。席亭さんは哀れに思いまして置いてある木の
椀の中に少しずつお金を入れて行きました。その中で、おそらくは高名な茶人が使っていたであろう茶碗を置いて
いる若者がいたのです。おかしいなと思いましてね、門前の町の人に尋ねてみると・・・・・
“あの人は元は大きな商家の若旦那で頭の病で勘当になって今はああして暮らしているということなのでした。”
席亭さんは思い切ってその商家を訪ねてみることにしたのです。
[失礼いたします。私は江戸から京見物にきたものですが、旦那様にお目にかかれませんでしょうか。門前におられた。若旦那様について少々お伺いいたしたきことがございます。よろしければ・・・・・]
「はい。少々お待ちください。」
初対面なのに何故か客間に通されまして待っていると、主人らしき人物が入ってきました。
「はじめまして、いきなり見ず知らずの者が尋ねてきて若旦那様についてお聞きしたいとは甚だ失礼とは存じますが」
「いえいえ、お見かけしたところ江戸ではさぞかし名のあるお方だと思いました。尋ねたきこととは、何故あのような
ことをさせているのかということですかな。」
「はい。差し障りなければと・・・・・・」
「茶碗をご覧になってのことかと思いますが、あの子は実は私の息子ではありません。ある高名な茶人の息子でして
いろいろ事情があるのですが、それは兎も角として、その茶人は人様にすがって暮らすような身分にまで身を
おとしてしまったのです。その茶人とは古くからの付き合いでしたので、せめて私のところで暮らしてみてはどうかと
申し上げたのですが、お聞きになりません。せめて息子さんだけでもと引き取ることになりました。」
「そうでしたか。」
「その茶人は高齢でもあり病でその後亡くなりました。息子さんですが手元に置いてせめて商人として育てようと
考えました。しかしながら茶人の子は茶人でした。なのに私が商人に育てようと無理をさせたのでしょう。
次第に心の病にかかりまして父親の姿を覚えていたのでしょうか。結局門前の人達のところに戻ってしまった。
というわけなのです。」
「なるほどそういうことでしたか。お気の毒なことことでした。それで茶人の持っていた茶碗を置かせたというわけなのですね。」
「はい。彼らと一緒にいるのがいいようにも思うようになっています。」
哀れな話でした。席亭さんはせめてものことと思い、門前にいる若旦那のところに出向き、茶碗の中に三両を
置きます
「こんなに頂いてはなりません。どうぞ三文でいいのです。」
「いいから受け取ってくださいな。私からの心ばかりの報謝でございます。お仲間の方々と分け合ってくださいませな」
「おありがといございます。」
その光景を見ていた老境の浪人風の方がいました。
「もしもし、席亭さんというお方だとお聞きしました。江戸からこられているとのことで・・・・・・。茶碗については大層な
目利きでいらっしゃるとのこと・・・・・。相談したきことがありまして宜しければお願いできないでしょうか。」
「目利きなんてとんでもありません。ですが私でお役にたてるのでしたらお聞かせください。」
「席亭さん。時分時ですから美味い蕎麦屋にご案内しましょう。話はそこでどうでしょうか。」
「いいですねぇ。行きましょう。」
二人は近くの蕎麦屋に入りました。
「お好きなものを注文してください。」
「私は酒好きなものですから蕎麦屋ではいただくことにしております。一杯やりながらでは」いけないでしょうか。」
「どうぞどうぞ。私は下戸な者ですからお付き合いできませんが。」
「そうですか。では灘の生一本をいただくことにします。」
「では、お飲みいただきながらお聞きください。私は浪人の身です。娘と二人で暮らしております。子供たちに
読み書きを教えて暮らしておりますが、急に金が入用になりまして出入りの紙屑屋に日頃手を合わせていた仏像を
買ってもらえないかと頼みました。その紙屑屋は骨董のほうは扱っていないということで、とりあえず預かって
売れたら金は半分ずつというような正直者です。その仏像はとある家の武士に買い上げられたので、代金の半分を
とまぁ・・・・・。しばらくするとその紙屑屋が来ましてな。仏像の中から大金が出てきたというのです。その武士も
実直な人柄と見えて仏像は買ったがなかから出てきた金銭はお返ししたいということなのです。
こちらは売ってしまったものですので、今更そのようなものを受け取れませんとお断りをしました。が、紙屑屋の
申すことには生活に窮しておられるのは、失礼ながらわかります・・・・先様の好意でもありますので受けてあげて
くださいましというので、、ではせめてものお礼にと日頃使っている茶碗などを差し上げたいとおもいましてな。
なにしろ古くからの汚い茶碗ですので、そのようなものを差し上げてはかえって失礼になりはしないかと危惧
しまして、先祖代々の茶碗ではあるので、イカばかりの価値があるものかと・・・・・席亭さんの目利きをという・・・」
「先ほど申し上げたように私は目利きではないのですが、その道の有名な人を知っておりますので紹介しましょう。」
「茶金さんではないですか?」
「ご存知なら最初から相談されれば良かったのに・・・・・」
「いえ、一面識もございませんので。」
「ま、いいでしょう。話はわかりました。さっ、いただきましょう。あとは私にお任せください。お薦めのそばも食べて
みましょう、もう少しお酒を飲みたい気分でもあります。お勘定は心配なさらないで下さいね。」
「かたじけない。お言葉に甘えさせていただきます。茶碗を持っておりますので、ご覧下さい。」
「はい。拝見だけさせてください。」
席亭さん。よくはわからないようですが、ただの茶碗ではないような感じを抱きました。
「この茶碗はいつも使ってらしたのですか?」
「はい。湯飲み茶碗としてもちいております。」
「預からせて頂いてよろしいでしょうか。」
「結構です。申し遅れましたが私は・・・・・・・・・住いは・・・・・・・・でございます。」
「では茶金さんに鑑定してもらうことにします。結果がわかり次第に茶金さんから連絡していただきましょう。」
それからは飲めや食えやの宴でしてね、席亭さんは十分に酒を堪能しました。
遠からずして茶金さんのところの手代がやってきまして
「例の茶碗のことでお話がありますのでおいでいただきたい・」とのこと。出向きますと
{席亭さん。ご依頼いただいた茶碗ですが、これは“井戸の茶碗”ともうしまして、珍しきものです。
細川公にお見せしたところ、三百両で求めるということなのです。吉報です。ご浪人様にはお知らせしております。
そろそろおみえになることでしょう。」
「旦那様おみえになりました。」
「そうか、こちらに案内しなさい。」
「茶金さん、席亭さん。この度は色々お世話になりまして有難きことと存じます。」
「まあまあ堅い挨拶はよろしいではないですか。あの茶碗はどのようにして持っておられたのですか。」
「あれは先祖代々のものでして品物の価値など知らされずに使っていたものです。」
「よほど由緒ある家柄とお見受けいたします。」
「いやいや、祖祖父の時代に豊臣家ゆかりの品物として拝領したものだと言い継がれておりますが、仔細については
わかっておりません。箱書きもないものですから茶などを飲むのに使っておりました。」
「これぞ贅沢の極みですな。どのような名器でも飾っておくだけではいけません。・・・かといって小生などは使う勇気
などありませんがな。・・・・ふふふふ。」
無欲をあらわすような話でした。
ところで肝心の静香さんに会うということですが、永くありましたので次回ということで今回はこれでお開きということに
いたします。お後が宜しいようで・・・・・・・・・・・。