落語奇談「眼病チャンチャカチャン」

 


「席亭さん。こんにちは。」

「おや熊さん。どうしました。とんとご無沙汰でしたね。」

「ちょいと相談がありましてね。聞いてもらいたいと・・・・・」

「はい。聞きましょ。」

「実はこのところ眼がかすんでしょうがないんですよ。」

「ほう。眼のことはよくわからないんでね。先生を紹介しましょうか。」

「はい。よろしく。」

てんでね。熊さん早速眼医者に行った。

「先生。どうでしょうかねぇ。」

「だいぶ右眼が濁っていますな。汚れもひどいようじゃし、洗浄が必要じゃな。」

「洗浄っていますと・・・・・」

「うん。なんてことはない。右眼をくりぬいてな、この器の中の洗浄液に漬けるのじゃよ。」

「一日くらいでいいんですか?」

「いや、一週間くらいはかかるだろうな。」

「その間は左眼だけですごすんですか?」

「ま、すこし見難いかもしれないけどな。じきになれるだろうよ。」

それからは熊さん、眼の入った器を片時も離しません。

「熊さんよぅ、仲に繰り込もうじゃねぇか。」

「おう、はっつあんかい。いいねぇ。」

二人はしこたま飲んで、お引けとなり、翌朝を迎えたわけですがね。

はっつあんは寝起きでね。喉が渇いたものだから眼が入った器の水を一気に飲んでしまったわけですな。

いわゆる宵越しの水千両てな具合でして。

そのうちにね、はっつあんの様子が段々おかしくなってきてね。

通じが無い。便秘ですね。原因はわからないので、困ったがあげく医者のところに・・・

「どれどれ、・・なるほどお腹がふくらんでいますな。腸のほうはいいようじゃがな。お尻を拝見いたそうか。」

てんで、尻の穴を覗くとね。なんと向こうからこっちを眼が見ていたという・・・・

(飲み込んだ眼がつっかえていたてねえわけですなぁ。)

眼を取り出して、はっつあんのほうは無事に解決したのですがね。こまったのは熊さんでして、まさか尻に

つっかえていた眼を自分に入れるわけにはいかないので、先生に相談した。

現代では臓器移植なんて方法がありますがね、眼を入れ替えるというのは聞きませんねぇ。

でもね、この先生は乱暴なもので眼を移植しようと考えた。人の眼を使うわけには行かないので、なんと犬の眼を

使ったのですな。遠眼がきくしね、夜目もきくということでまことに都合が良いというわけですかな?

熊さんのほうは全快でしてね。この調子なら片方も犬の眼になんてことで・・・・視力8.0なんて状態になった。

                ・・・・・・のですが、いいことばかりじゃない。

        匂いに敏感になる。

 1キロ向こうの匂いがわかるというけど、人間にはいい迷惑ですな。

        小便

 電柱のそばを通ると無性に小便がしたくなる。立ちしょんてなわけにもいかないのでねl。困った。

        メス犬がいると興奮する。

 若い娘がそばを通ったりすると尻を嗅ぎたくなる衝動にかられます。

        野菜嫌いで肉食中心

 牛丼大好き。ステーキ・焼肉大好き人間に・・当然ながらメタボリック症候群になった。

        月に吠える

 朔太郎じゃないっての・・・・・・・・

まぁ、そんなこんなで暮らしていましたがね、だんだん慣れてきますから奇行もなくなってきてね。歳を重ねてくる。

犬の寿命と人間のは違います。「ドックイヤー」なんて言うくらいでね。さすがの犬の眼も衰えてきます。

そこで熊さんは考えた。

「どうせなら一生使いたいのもだねぇ。なにか思案はないかと思っていたけど、眼は片方あればいいんでね。

 一つは使わないようにしてね、ダメになったらもう一つの方で見ればいいじゃないかなぁ。」

なんてねぇ。片方の眼に眼帯をして過ごしました。

とうとう眼も寿命のようで見えなくなる。やはりなと片方の眼帯をはずした。案の定よく見えますよ。

見えるのはいいのですけど、通る人見る人近所の人、誰も知らなかったという・・・・・・・・・

 

熊さんは心配事がまた一つ増えます。

「この眼が見えなくなったらどうしようか。」・・・てことで。

先生に相談してもね。「もう眼の入れ替えはできない。」という。

「この目薬を差し上げますから朝晩つけてください。」

熊さん喜んでもらって帰った。

「おい。目薬を貰ってきたよ。これを朝晩つければいいんだってよ。」

「そうかい。よかったねぇ。あたしがつけてあげようか?」

「うん。貰ったのがね。粉薬なんだよ。眼にさす薬はあるんだけど、これどうやってつけるのかねぇ。」

「おまえさん。聞いてこなかったのかい?」

「うん。薬袋に書いてあるんだけどなぁ。」

「おまえさん、読めるの?」

「ひらがなならなぁ。なんとか。」

「なんて書いてあるのよ。」

<めじりにつけてもちいること>と書いてあるのだけど、<め>という字を読めませんでね。

「おい。この字はなんて読むんだっけなぁ。」

「あたしにわかりっこないでしょ。・・・・・・・でもね、どこかでみたような字だこと。」

「あっ・・・・・そうでぇ、たしか湯屋の暖簾になかったかい。」

「そうだよ、あんた。女湯にかけてあったよ。」

「そうだ。ちげぇねぇや。女って読むんだ。」

「女の尻につけてもちいること。・・・・・・・・かい?」

「そうだ。早速やってみようじゃねぇか。おい。尻をまくってみな。」

「やだよ。昼間っから恥ずかしいじゃないか。」

「誰もみてねぇよ。いいからまくれよ。」

「うんーーん。しょうがないねぇ。・・・・・・はいよ。」

「おう、まくりやがったな。久しぶりだぜ。こうしみじみ見るのもなぁ。」

「何言ってるんだい。はやくおしな。」

「尻につけるてぇけどなぁ。どこにつけりゃ・・・・・このへんかいな?」

とね、お尻の中心に粉薬をつけ始めたのですな。

「やだ、あんたぁくすぐったいじゃないのぉ。やめてよもう。」

「亭主の眼のためだ我慢しろい。」

「ああああっ・・・・・・・だめ------プウ・・・・・・・・・」

「うわぁ。やりやがったな。」

その瞬間、尻の穴についていた目薬がパッと飛んでね。亭主の眼に入った。

「なるほど。こうやってつけるんだ。」

 

「文違い」という落語がありましてね。だいぶ噺が込み入ってきます。

花魁には真夫といえるまあ本当に好きな男が要るもので、商売上嫌な男とも付き合わなくてはならないのがつらいところですね。騙し騙しあいの世界。「花魁の筆に狸の毛が混じる」てなようで・・・・・

この真夫から手紙が届く。「自分は眼の病で医者に聞くと朝鮮人参という高価な薬が必要だという。二十両なんとか

 ならないか。」というようなことで。

花魁は好きな男のためですからね。他の男を騙してね金の算段しようてなわけです。

若い者には二十両なんて大金は無理で、なかに田舎から通ってくる木兵衛大臣というのがいて、牛を仕入れに江戸に

でてきたから懐には金が有る。

「この花魁の真夫は自分だという」とんでもない誤解があってね、そういう事情ならと金を都合した。

花魁の気持ちは舞い上がりますよ。やっとお金ができた。外には好きな男が待っている。

急いでとんでいきます。男はしきりに手ぬぐいで目ぬぐっている。

「加減が良くないようだけど大丈夫。・・・・頼まれたお金が出来たの。」

「そうかい。ありがてぇな。」

「ねぇ。今晩は泊まって行ってくれるんでしょ?」

「そうもいかねんだ。一刻も早く医者にいきてえとおもうんだが。」

「泊まってってくれないの。それじゃお金はあげられないわ。」

「そうかい。それじゃぁいらねぇよ。医者から女は当分我慢しろっていわれてるんだ。それでも・・・ていうならいらねぇよ」

「ごめんね。本当にごめん。おこっちゃいやよ。はい、これもっていって。」

「ん。わりぃな。つええこといえる立場じゃねんだけどな。有り難く貰っていくよ。」

この男一丁ばかり歩いていくと人力が止めてあってね。乗り込むと闇に消えていきました。

男の懐には柳橋の芸者から貰った手紙があったといいます。・・・・・・・・・がね。これからどういうことにねぇ・・。

 

−完−


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