八代目 春風亭 柳枝 師匠編

 


ご存知、売れに売れた師匠で一晩に何軒も掛け持ちをしたという忙しさで

楽屋に入るや否やすぐに高座に上がったという。先に来て待っていた他の

噺家が面白く思わなかったというくらいでして。まあそのくらい売れていた

というわけです。ですから比較的短い噺をやっていた。それでも「甲府い」や

搗屋分限」などは長い噺の方ですね。

噺を聴いていてつくづく思うのは声の良さですね。柳枝師匠と柳好師匠の

声は実にいいですよ。粋な声という感じでしょうか。円馬師匠も声は良いの

ですが、すこしキツイところがあって客受けがよくなかったと聴いております

柳好師匠の「野ざらし」なんぞ、あの歌い上げるような口調は絶品ですよ。

高座に上がると客から演目の声がかかる。そんな噺家が少なくなってきて

います。やはり何々師匠の何々噺というパターンが欲しいですよね。

当席亭が勝手に思っているのはこうです。

ただし、現代の噺家に限りますけど。

 

  談志師匠==>「芝浜」「二階ぞめき」「野ざらし」「居残り佐平次」

         「慶安太平記」

  小朝師匠==>「稽古屋」「池田屋」「片棒」

  志ん朝師匠=>「二番煎じ」「火焔太鼓」「三枚起請」「お若伊之助」

    小三治師匠=>「備前徳利」「宿屋の富」

    志の輔師匠=>「千両みかん」

    志らく師匠=>「子別れ」

 などなど、一部ですが、こんな風に思っていますね。

これを昭和の名人達でみると、こんな風でしょうか。

 

  文楽師匠==>「明烏」「船徳」「よかちょろ」「富久」「素人鰻」

         「寝床」酢豆腐」「厩火事」「締込み」「愛宕山」

         と、きりがない。

  志ん生師匠=>「火焔太鼓」「井戸の茶碗」「風呂敷」「中村仲蔵」

         「淀五朗」「唐茄子屋政談」「盆々歌」「吉原奇談」

         「江島屋」「五人まわし」

         志ん生がうなっている「大杖」などもいい。

 

 

八代目 春風亭柳枝

甲府い

八代目 春風亭柳枝

ずっこけ 

八代目 春風亭柳枝

花色木綿

八代目 春風亭柳枝

高砂や

八代目 春風亭柳枝

花筏

八代目 春風亭柳枝

搗屋分限

 

「甲府い」という………………噺

 

  ある田舎の若者が江戸で一旗揚げようと出てくるが、生き馬の目を抜くという

江戸のこと、あっという間にスリにやられて一文無しになり、空腹のまま

江戸の町をうろついていると、豆腐屋の店先にでてきた。そこにはおいしそうな

匂いをさせた「おから」が湯気をたてていた。何日も食べていない若者は、

思わず手が出て、盗み食いをしてしまう。そこを店の者に見つかって主人の

前に突き出される。「おから」なんて安いもの。どうして盗み食いなどを?

と理由を聞くと気の毒な事情であった。よくよく理由を聞くうちに、若者は

身延山に願をかけて江戸に出てきたとのこと。

この豆腐屋さんは「法華教」の信者で、店の名前も「法華豆腐」という程。

この若者との出会いはお祖師様の引き合わせだと解釈し、同じ信者に悪い

人間はいないはずだと。店で使う事にする。

豆腐を売り歩く事が仕事になるのだが、売り声に工夫があり、

とーふい、胡麻入りガンもどき」という。

この店の豆腐は胡麻が入っているというのが特徴であった。

それからというもの、その若者は一生懸命に働く。朝は早くから夜は遅くまで

一身ふらんに働いた。ある夜のこと、主人が外の井戸で水の音がするのを

不信に思い外に出てみると、若者が水垢離をしながら店の繁盛や主人の健康

下がって自分自身の成功をお祖師様に祈っている姿を垣間見る。

それに感動した主人は自分の娘との結婚を考える。娘に問いただしてみると

まんざらでもない様子。早速祝儀をあげて二人は夫婦となる。夫婦仲もよく、

ある日、両親のところに尋ねてきて、若者は「私は国を出るときにお祖師様に

願をかけてまいりました。お蔭様でこんなに幸せになれましたので、お礼に

身延山に二人で参りたいと存じます。どうかお許しを願います」という。

信心深い主人のことですから、吉日を選んで二人を送り出そうということに

なる。赤飯などを少し召し上がっての門出です。働き者の夫婦をよく知っている

町内の者が声をかける。「よっ、お二人さん揃ってどちらへ?」そこに若者が

こーふい、おまいりガンほどき」でさげとなる。

地口落しというやり方です。

 


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