笑福亭 松鶴 師匠編

 


 上方落語界の重鎮でした。お酒を愛した噺家は大勢いますが、その中でも

 指折りでしょう。小染師匠はお酒で寿命をちじめたのですが、お酒を飲まない

 噺家もおられますが、やはり飲まれる噺家が好きですね。

 高座でお酒を飲む仕草はむしろお酒を飲まない人の方がうまいと聞きますが、

 酔いつぶれて高座で寝込んでしまった志ん生師匠などの逸談は有名で、

 酒飲みの描写で心に残っているのが、「志ん生師匠」「馬生師匠」「松鶴師匠」

 「談志師匠」「小さん師匠」「円生師匠」「枝雀師匠」「志ん朝師匠」・・

 いづれの方々も名人・達人の師匠連。色物では「三亀松師匠」が絶品。

 松鶴師匠は「誰や」というのは口癖だったそうで、師匠が飼っていたオウムが

 この口癖を覚えてしまっていたそうだ。ある日師匠の留守中にご用聞きがきて

 「酒屋だす。」と声をかけると「誰や」の返事。「酒屋だす。」「誰や」の

 繰り返しを延々とやっていたそうだ。その内、ご用聞きがあきらめた。その時

 松鶴師匠が帰ってきて、「誰や」というと、オウムが「酒屋だす。」と言った。

 そんな逸話がのこっている師匠だ。

 噺の口調は少し舌足らずのところがあるが、「三十石」などは見事な出来で、

 上方の名人であった。

 「三十石」は円生師匠の高座が有名だが、枝雀師匠、百生師匠、文枝師匠、

 松鶴師匠などの上方落語にも本家としての風格があろう。

 

笑福亭松鶴

あとひき酒

笑福亭松鶴

高津の富

笑福亭松鶴

らくだ

笑福亭松鶴

一人酒盛り

六代目 笑福亭松鶴

初天神

六代目 笑福亭松鶴

へっつい幽霊

六代目 笑福亭松鶴

猫の災難

六代目 笑福亭松鶴

蔵丁稚(四段目)

六代目 笑福亭松鶴

一助酒

六代目 笑福亭松鶴

植木屋娘

六代目 笑福亭松鶴

狸茶屋 貧乏花見(上)

六代目 笑福亭松鶴

貧乏花見(下)

六代目 笑福亭松鶴

三人兄弟(上)

六代目 笑福亭松鶴

三人兄弟(下)

六代目 笑福亭松鶴

三十石(上)

六代目 笑福亭松鶴

三十石(中)

六代目 笑福亭松鶴

三十石(下)

 

「一人酒盛り」・・・・・・・・・・・・・・という噺

 

 酒飲みの噺。師匠得意の噺。酒飲みの男。脇から灘の生一本を手に入れ、

 一人でやろうとしている。この男、不精もので酒の燗をするのが嫌で、近所の

 男が通りがかったのを機に、酒を誘う風で燗をさせる。一緒に飲みたいてな

 口調で気のいい男に燗をさせてしまう。この辺のやりとりがこの噺のみそ。

 気のいい男に酒を誘っているような風だが、酒飲みは意地が汚い。大切な酒を

 飲ませるわけはないのだが、気のいい男は見事に引っかかってしまう。 

 この噺の中で、このくだりには気のいい男のセリフはない。のみたそうにして

 いる男の姿を想像すると実におかしい。気のいい男が酒の燗に失敗するくだりは

 酒飲みの本性が現れている。松鶴師匠は酒飲みの本性を内蔵していた人物だろう。

 気のいい男も酒好きな男。酒飲みは酒飲みの心をやく知っている。酒を飲みたく

 て用をしている男の心理をよく知った上で用をいいつける駆け引きが面白い。

 とうとう酒を自分一人でのんでしまった酒飲み男。気のいい男も堪忍ならず、

 啖呵を切って出ていってしまう。さぞかし面白くなかったのだろう。

 最後は酒飲み男を睨み付けて喧嘩腰になる。

 近所の「お梅はん」がなにかあったのかと聞きに来る。

 「お梅はんか、心配いらんは、あいつちーと酒癖がわるいんや」

 

 この噺の面白さは最後まで気のいい男のセリフがなく、酒飲み男のセリフで

 その様子を思い浮かばせる部分にあろう。ここが落語の醍醐味である。

 噺家と聞き手があるイメージを共有する。しかしそのイメージは聞き手、演者

 それぞれ異なるはず。でも共有のイメージとしてくくれるところに噺家の力量

 がでてくる。聞き手がイメージをもてなくなってくる時代になった時、古典落語

 は存在できなくなるのだろうか。「間に合わなかった世代」である。

 吉原なぞ知る由もない。でも噺家の話芸によってそのイメージを持つことは

 できる。勿論、他のメディアによって吉原のイメージは入ってくる。これらが

 一緒になって演者と聞き手の共有がなされるのだろうか。

 まさにこの場は「知的世界の遊び」となろう。その知識が実体験に基づかない

 以上、「知的世界」は「仮想的世界(バーチャルワールド)」となる。

 

 また蘊蓄を語ってしまいました。でも落語の本来は庶民の本音であったはず、

 庶民の暮らしからでる本音だったはず。知的なものではなかったのだが、

 現代にいたっては新作にそれをもとめるのか、古典の中に今の庶民の本音を

 語るのか。噺家は模索をしているのだろうか。


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