林家 正雀 師匠編

正雀師匠といえば「芝居噺」です。彦六師匠の継承者というのは、ちと当てはまらない。
にしても、きちんと歌舞伎やその他の芝居を勉強されておりまして、なくてなならない
噺家さんでございます。「芝居噺」は落語に導入されている部分が解らなくなっております。普段から歌舞伎などを知らない世代には「芝居噺」は理解しがたいものでしょう。
亡くなられた柳朝師匠が弟子の小朝師匠に「芝居はみておかなくちゃいけねえ。」と
おっしゃられたとか。噺家にとっては芸の肥やしになるものでしょう。日本舞踊なども
高座での姿勢を良くするのに役立つそうです。
現代の「芝居噺」で思い浮かぶ噺家といえば、…………・
文枝師匠、小朝師匠、正雀師匠、染丸師匠、染二師匠、などなど。
他にもいらっしゃるとは思いますが、とりあえず。
「芝居噺」と「音曲噺」と「音曲師」と「粋談」というようなジャンルがありますが、似てひなるものです。すっかり拝見できなくなっているのが後の三つでしてね。
特に「音曲師」はいまではおられないのではないでしょうか。
「粋談」となると、柳家三亀松師匠を思い出しますが(といってもお会いしてないけど)
当代では三遊亭圓歌師匠門下に小圓歌さんがいましてね、女流ではありますが、
頑張っております。
「粋談」では吉原を初めとする遊郭が背景になりますから、当代ではイメージできる
客がいなくなってしまった、それがやりにくさをうんでいるのでしょうか。高座の色物が
無形文化財ではしょうがないですものね。
では趣向を変えまして、少し粋にふってみましょうか。
ではこの辺で「都都逸」などを紹介してみましょう。色々な方々のものです。
すこし色っぽいものからいきましょう。三亀松師匠のものです。
♪ 肩から滑って覗いた乳房、にっこり笑って消す灯かり ♪
♪ 鳴くが情かよ鳴かぬが情か、蝉と蛍のこん比べ
草と寝て露に濡れてる家宝をもって何が不足で虫は鳴く ♪
♪ 吾妻橋とは吾が妻橋よ そばにわたしがついている ♪
次は他の師匠のものも………
♪ ちゃぶ台にかけた布巾のひととこ高く 心尽くしの匂う夜 ♪
♪ ともかくも世間の手前に窓だけ開けて も一度うれしく入る蚊帳 ♪
♪ 口じゃこれきり帰ってくるな 耳じゃ待ってる下駄の音 ♪
♪ 折れた箸割った茶碗に決まりが悪い 中は直った朝の膳 ♪
♪ わたしゃ深川貝殻育ち 貝の柱に牡蠣の屋根 あだなあさりとそうよりも
やっぱりおまえの馬鹿がよい ♪
おわかりになりましたでしょうか。雰囲気なりとも味わっていただければと思います。
さて都都逸はこの辺にして話しは戻ります。
上方落語界には「芝居噺」を志す若手もたくさんおられることと思います。
正雀師匠は柳家権太楼師匠と大学は違いますが落語研究会では同期なのだそうで、
それぞれ芸風はことなりますが、これからが楽しみな噺家さんです。
| 林家正雀 | 真景累が淵より豊志賀 |
| 林家正雀 | 掛け合い道成寺 |
| 林家正雀 | 小言幸兵衛 |
| 林家正雀 | 鰍沢 |
「小言幸兵衛」………・・という噺
お馴染みの噺ですので、この噺の背景などを書くことにします。
長屋は江戸の庶民の生活空間でして、一戸建ての家などというのは今も昔も庶民には
縁遠いものでした。長屋を支配するのは大家さんですが、この人は長屋の所有者では
ありません。管理を任されているという人です。所有者は大店の主とかなにかで、もっと
環境の良い所に住んでいる。でも大家さんになるということはtたいしたものでしてね、
「町役人」などを兼ねている人もいるくらいでして。それだけに責任が重かったのです。
幸兵衛さんも大家さんでした。管理している長屋に事件などが起きないように見回りを
するのが日課というのは、ことが起きれば責任を問われるからなのです。
長屋に住んでいるものはその氏素性がわかっているのが大家でした。
「人別」、昔の戸籍ですが、「人別」のない者=無宿人などは長屋などには入れない
のが当然で、この辺のところは「髪結い新三」などでおわかりかと思います。
してみると幸兵衛さんが長屋中に小言をいいまくるのも、貸し家に応募してくる人達を
厳選するのも合点のいくところではないでしょうか。
現代では大家さんにあたるのはさしづめ不動産屋でしょうか。雨風しのぐ家賃も自動
振り込みですし、大家さんらしきものに出合うことはなくなっております。隣近所との
付き合いも薄くなっております。長屋の人情はすたれてしまいましたね。