枝雀 師匠編

 


早いもので、もう七回忌を迎えてしまいました。惜しい噺家を失ってしまったものです。

いよいよ枝雀師匠の登場です。でも、なかなか言い尽くす事ができません。

とにもかくにも、スケールの大きな師匠ですから、枝雀師匠は高座で聴くしか

ないのです。メディアを通じては全くその真価は伝わりません。

談志師匠もメディアを通じた落語に嫌悪感を抱いておられますが、そんな

過激な意味でなくても、枝雀師匠は高座で聴いて欲しいのです。

その高座は豪放磊落そのもの。話術は言うまでもないのですが、身振り手振り

でエネルギッシュに語る姿は見事ですね。客席に正対をしないで動き回る。

「落語は緊張の緩和」という師匠ですから、とにかく面白いのです。

枝雀師匠は神戸大学在籍と言う経歴の持ち主でインテリなのでしょう。

英語で落語をやるなどという離れ業を見せてくれました。

ですから外国人にもファンが多いのです。「落語演劇」といいましょうか。

面白い舞台も見せてくれております。

師匠は「小米」時代には、かなり落ち込んでいたということです。

かなり苦しまれたようですね。今の芸風からは想像できないのでしょうね。

このような、落ち込みの時代を通過してきた、枝雀師匠は独自の芸風を

築き、他の追従を許さないのであります。そのエネルギー、表現力、口調、

所作(特に手・指を使っての表現…・手話ではない)は見事なものです。

江戸落語では「与太郎」さん、上方落語では「たよりない者」ですが、

上方弁でのイントネーションは伝わりませんので、枝雀師匠の芸は文章表現

では限界があると思いますが。この「たよりない者」を枝雀師匠は実に見事に

表現をされるのです。「軒付け」の中の「鰻の茶漬け」目当ての男。

「貧乏神」の貧乏神自身。「天神山」のキツネを助ける男やヘンチキな男。

「代書屋」のガタロの男などなど…実に見事な枝雀芸なのです。

まあ上方落語の真骨頂ともいうべき芸ですね。

あまりの個性の強さに客の好みに左右されるかもしれない。けど、やはり

本物の上方落語の姿がここにあると思います。

 

  枝雀

船弁慶

  枝雀

寝床

  枝雀

饅頭こわい

  枝雀

宿屋仇

  枝雀

軒づけ

  枝雀

ケッタイな小咄より

  枝雀

三十石〜夢の通い路

  枝雀

蔵丁稚

  枝雀

宿替え

  枝雀

貧乏神

  枝雀

天神山

桂 枝雀

たらちね

桂 枝雀

青菜

桂 枝雀

代書屋

桂 枝雀

佐々木裁き

桂 枝雀

住吉駕篭

 

「軒づけ」………………という噺

 

大阪は芸どころと申しまして、庶民が趣味で義太夫。浄瑠璃などをやって

おった時代が御座います。今でもそうなのでしょうね。

義太夫は大流行をいたしまして、素人の方々が集まってはへたな芸を

きそうという、今でいう「カタオケブーム」みたいなものでした。

少しでも、できるようになると人に聞かせたいというのが人情でして、そんな

人達が集まって、これから街角の家の前で唸ろうというわけである。

所詮、素人衆ですから家の前で唸られた方がいい迷惑ということになる。

義太夫には三味線の伴奏が必要だが、あいにく、その日は担当者の都合が

悪く、急遽。紙ぐず屋のてんさんに応援を頼む。が、この人物は三味線の

初心者で、「テンツテンテン」とか「チリトテチン」など3パターンしか

弾けない。これで義太夫の伴奏をしようというのだから無茶苦茶でして。

なかには、どこをどう間違ったのか、歓迎されて、鰻の茶漬けを振る舞われた

などと言われて、それを目当てに参加する輩もいた。

ある家の前に立って義太夫をやろうとすると「じゃかしい。子供がねとんねん」

などと怒鳴られる始末でして、さんざんなめにあって、たどり着いたのが

いつものお婆さんの家の前で、義太夫を唸っても何の反応もない。

シーーンとしているのだ。聞き入っている様子もないので、不思議に思い

中に入ってみるとお婆さんは食事中でした。このお婆さん耳が少しとおくて

それで、ひどい義太夫を聞いても何ともなかったのでしょう。

でも、このお婆さん、こう皮肉ってオチをつけるのである。

「おまえさん方の義太夫はうまい。味噌の味がちっともかわらん。」…

音痴は糠床を腐らせるという…・・(*_*)

 

「貧乏神」………………という噺

 

長屋住まいの男。働く気などなく毎日ぶらぶらしていた。お金など勿論ない。

とても気楽な男であったが、この男には実は貧乏神がついていたのである。

なるほどそれならば、働く気はないのもうなづける気もししょう。

しかし、普通は貧乏神は働き者にとりついて「働けど働けど我が暮らし・・」

というようなことに人間を陥れるのだが、この貧乏神は「たよりない」貧乏神

でして、貧乏神仲間でも最低ランクの貧乏神。ということは性格のやさしい

貧乏神さんであった。与太郎の貧乏神というわけでした。

この貧乏神でさえ、あきれはてたのがこの男でして、とうとう貧乏神の方から

でてきて、「なあ、おまえなあ。いい加減働いたらどうなんじゃ。毎日毎日

怠けおってからに、お陰でわしなんか、痩せこけてしまったわい。ええ!」

でもこの男いっこうに、気にかける様子もなく、こう切り替えした。

「ははあー。おまえさんがわしんとこの貧乏神さんかい。おまえさんも、

 運の悪い貧乏神やで。みてみい、わしなんかと所帯をもとうなんという

 おなごはおれへんしな。男やもめにうじが湧くのたとえ。で洗濯物が

 ぎょうさん溜まっているねんな。ちょうといい時にでてきよったがな。

 この洗濯物を洗ろうてくれへんかな。」

まったくもって図々しい男もいたものである。それに加えてこんな頼みを

引き受けてしまうのだからお人好しの貧乏神さんである。

最低ランクになるのも、肯けようというもの。

それからは二人の奇妙な共同生活がはじまることになる。

男は朝からブラブラ遊びほうけている一方、貧乏神さんは炊事・洗濯にと

忙しい日々を過ごしている。

「わしなんで、こんなことしてんのやろなあ。わし、貧乏神やで、人間に

 とりついて楽に暮らしていける身分のはずなのに、なんでこんなこと

 してんのやろ。」と、ぼやいている始末。

男の方もそうそうお金が続くわけでもなく困った挙げ句に貧乏神さんの

財布からいくらか盗み出してしまう。

これにはかの貧乏神も、あきれはててしまう。

「家出しようかいなあ。貧乏神の方から出て行くなんて、前例がないで

 ほんまに。でていくより、しゃあないなあ、もう」

そこに男が帰ってきた。「あれ、貧乏神さんどこいくんや。」

「でていくんや!お前には愛想もこそも尽き果てたわい!」

「そうか、そう言われてもしゃあないわなあ。無理もあらへんで。

 でていくかあ。達者でなあ。今度は俺みたいな人間に取り付いたら

 あかんで。」

「わてな、なさけない貧乏神やねん。いいのに取り付こう思うと横から

 強い貧乏神がさらって行ってしまうねん。今度いつどんな人間に

 とりつけるか。わからへんねん。」

「そうか。そんなら心配いらへんで。友達を紹介してやるさかいな。」

「お前の友達かあ。」

「そや、わてと同じで、やもめやねん。洗濯物溜まってしょもない言うてん。」

  

それにしても、哀れな貧乏神さんでしたね。

 

 


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