第二十回 志らく百席 IN 横浜にぎわい座

一回あたり三席として今回で60のネタがでたことになるのでしょうか。ネタ切れもでてきそうな状況でしょうね。
三遊亭円窓師匠の五百席は有名ですが、志らく師匠もこれを目指すのでしょうかねぇ。
今回の出し物は以下でした。
一席 欠伸指南
二席 茶の湯
三席 たちきり
間に志らく師匠夫婦が8月にロスに旅行した時の話題を聞かせてくれました。
「欠伸指南」「茶の湯」は定番ですが、「たちきり」は上方では「立ち切れ線香」といいまして大ネタの人情噺です。
なんと言っても米朝師匠、文枝師匠の高座が絶品でしょう。米朝一門の亡くなった朝師匠などもよかったですね。
他に千朝師匠もやっています。上方落語らしく鳴り物噺で、三味線のもの哀しい曲が流れます。
東京ではあまり落語家さんがやりません。八代目 三笑亭可楽師匠や柳家権太楼師匠のものを聴いた程度。
志らく師匠も頻度は少ないのでしょうけど何回かやっているそうです。ご本人曰く、あまり面白い噺では
ないとのこと。東京ではそうかもしれません。
「たちきり」上方では「立ち切れ線香」という噺は茶屋遊びをするときに線香一本を燃やして消えるまでを
料金の単位としたそうなのです。女郎買いなどもそうでして吉原の大店・中店は違いますが、場末のところ
ではそのようでした。
登場人物は例によって若旦那です。そして茶屋通いにいそしんでいまうということに。挙句の果てに
勘当ということでね。湯屋番とか船頭になってね人を川に落すとか、唐茄子をかついで売るなんてことに
なるのでしょう。大旦那や親戚筋が集まって若旦那の処分を決めるのですが、勘当するのは良くないと
百日の蔵住いということになった。
蔵の中に幽閉してしまうということですね。当然茶屋通いなんてできないわけです。
さて相手の女性ですが、上方に敬意を表して名を「小糸」としましょう。(志らく師匠はお久でやっていましたが)
若旦那は本来は真面目な人だったので茶屋遊びすることはなかったのですが、組合の寄り合いでたまたま
小糸さんに出会った。小糸さんは茶屋の女性には珍しく純真な子でして、若旦那は惚れこんでしまって
通いつめるようなことでした。蔵住いの若旦那でしょ。ある日突然来なくなってしまう。来れなくなってしまったの
ですが、小糸さん事情がわからずに毎日毎日手紙を若旦那に出し続けたわけです。この手紙。番頭が
若旦那に渡すことはないのは当然でした。封を開けずに引き出しに放り込んだ。
毎日手紙はきつづけます。さすがは若旦那が惚れた女だ。真のある女性だと思い始めて80日目、
とうとう手紙が途切れたのでした。ああやっぱり茶屋の女、この程度だったのかと思い直すのです。
百日も過ぎ、若旦那は表に出れるようになる。元の真面目な人になっているのを確かめた番頭。小糸さんからの
最後の手紙を若旦那に差し出します。
中には「この手紙が最後になります。もうこの世で会うことも無いでしょう・・・」
などと書いてあった。慌てて茶屋に駆けつけることになります。
と、この辺まではどの落語家さんも同じようなものです。
ですが、茶屋に駆け込んだあとの描写が違ってくるのですね。ここからがクライマックスですよ。
やってこない若旦那を毎日待ち続ける小糸。食べ物も喉を通らなくなって衰弱していきます。一日中
寝ているような状態になり、それでも手紙は出していた。ある日、若旦那が小糸のために前もって頼んでおいた
三味線が届きます。
自分では起き上がれなくなった小糸を背中を支えて手に三味線を持たせてやる。
小糸は撥を持つ力さえありません。爪でしゃんとやってね、こときれてしまいました。焦がれ死にでした。
茶屋のおかみをはじめ、茶屋子さん達も小糸さんを殺したのは若旦那だと思うわけです。仕方ないでしょうね。
そんなことがあって飛び込んできた若旦那に、おかみや茶屋子さんがどう対応するかの心理描写がこの噺の骨
でしょう。米朝、文枝師匠はこの辺が実にうまく描写されています。
志らく師匠の演出には茶屋子さんは出てきません。若旦那にすぐに位牌を出してしまうのですね。
茶屋子さんの若旦那への恨みとか愚痴、おかみさんのいやみな口の聞き方など解釈によって
色々あるはずです。
「あの若旦那。よく此処に来られたものねぇ。小糸さんを裏切っておいて見せる顔なんかありゃしないでしょ。
何しに来たのかしら。鬼だよねぇ。」
「こら、おまえたち。若旦那によくそんなことが言えたもんだね。さんざんご祝儀いただいたでしょ。そりゃまぁ
、あたし だってくやしいやね。一言も二言も文句をいってやりたいよぉ。でもね何かわけがあるんじゃないかと
思うんだよ。 陰に隠れて聞いておいでな。」
「若旦那。随分とお見限りでしたこと。小糸がねぇ。心配していたのですよ。」
「おかみさん。すいません。実は百日の間、蔵住いしていたのです。」
「そう。あいわかった。その先は聞かなくてもわかります。若旦那もたいへんだったんですねぇ。・・」
てなぐあいでね、小糸がなくなってしまったことを打ち明ける。驚きと後悔にさいなまれる若旦那。仏壇に向かって
線香をあげ、手を合わせ詫びる若旦那。生涯妻を持たないと約束する若旦那。そこへ三味線の音が
聞こえてくる。
「あれは小糸が弾いているんですよ。」と、涙するおかみさん。
ぷつっと音が消えた・・・・・・・・「おかみさん。どうしたんでしょ。」
「若旦那。丁度、線香が立ち切れました。」