"ゴジラ"

1997年07月16日〜加筆しています。   田中 おさむ 記
 昭和29年公開版 "ゴジラ"-1997.7.21加筆-
 日本の怪獣映画の原典ともいえる"ゴジラ"ですが、故圓谷英二さんの手による特撮と手作りといった感のある作品ですが、モノトーンの画面の中のゴジラを観るにつけ、迫力・重厚さという点では、現代でも立派に受け入れられる作品であると思います。
 故圓谷英二さんは、日本の特撮界ではまさに神様的存在ですが、物資、コンピュータによる特殊効果技術等のなかった時代に、これほどの迫力のある画像を創造できたことは驚嘆に値するものではないでしょうか?
御逝去されたことが誠に悔やまれます。一ファンとして御冥福をお祈り致します。
また、この映画の背景にある反戦・反核といった訴えがある点にも注目すべきことではないでしょうか?
たかが怪獣映画という前にその時代背景を忠実に描写した作品として、是非ご覧になってみては如何ですか?
このページでは、製作スタッフ、出演者各位殿に対して敬意をはらい氏名を掲載させて頂きました。

 昭和の歴史が一つまた一つ、と閉じて行きました。
ゴジラの生みの親である田中 友幸さん、そして俳優の勝 新太郎さんの 訃報です。
戦後の日本の文化を支えてきた巨星、勝さんを太陽と例えるのであれば、 田中友幸さんは月に、が堕ちてしまった。という感がしてなりません。

 製作スタッフ紹介
監  督 本多猪四朗
製  作 田中 友幸
原  作 香山  滋
脚  本 村田 武雄 本多猪四朗
撮  影 玉井 正夫
美術監督 北  猛夫
美  術 中古  智
録  音 下永  尚
照  明 石井長四郎
音  響 伊福 部昭
特殊撮影 圓谷英二、向山 宏、渡辺 明、岸田九一郎
監督助手 梶田興治
編  集 平 泰陳
音響効果 三縄一郎
現  像 東宝現像所
製作担当 眞木照夫

 出演者紹介
宝田  明(南海サルベージ技師緒方)
河内 桃子(山根江美子)
平田 昭彦(芹澤博士)
志村  蕎(古代生物学者山根恭平博士)
村上冬樹、界 左千夫、小川虎之助、山本  廉、林  幹、恩田清二郎
笈川武雄、榊田 敬二、鈴木 貴明、高堂 國典、菅井きん、河合 玉江
東 静子、馬野都留子、岡部  正、鴨田  清、今泉 廉、橋  正晃
帯 一郎、堤  康久、鈴川 二郎、池谷 三郎、平塚 勝巳
中島春雄(ゴジラ)

 物  語 Story
 太平洋上、白波の立つ航跡を引いていた。
船上で乗組員が、ギターを伴奏にハーモニカで故郷の音楽を
奏でていた。
すると突然、雷鳴も似た轟きが響きわたったのである。
甲板にいた乗組員達は、この轟音のもとへと視線をやった。
海面上に海中からの光が浮かび上がっていた。
鋭い閃光が乗組員達の目をくらませ、
それぞれが皆叫びを揚げていた。
次の瞬間、船体が炎に包まれた。
通信室では通信士が必死にSOSをモールスで打っている。
そこに、窓から海水が怒涛のごとくはいってきた。

通信士の必死の思いで打電されたSOS信号は、
海上保安庁の通信基地で受信されていた。
「遭難呼出波」と書かれた受信機の前で、
担当係官が受信していた。
炎に包まれた船体は、静かに太平洋の漆黒の海中へと
没していたのである。

南海サルベージの事務所で電話がけたたましく鳴っている。
汗を拭きながら電話をとり、
「はい、南海サルベージの緒方です。」
緒方は、ランニング姿で、肉付のいい青年技師である。
「何!、うむ、・・・
 よし、解った。すぐいく。」といって受話器を戻した。
そこに、山根恵美子が心配そうな面もちで、
緒方の側に寄ってきた。
受話器を置いた緒方は、表情を堅くして
「恵美子さん。」
恵美子は、
「事故でも?」と心配そうに問いかけた。
「うむ、
 本社の船からSOSが入ったんだ。
 すぐ海上保安庁に行かなくちゃいけないんだ。」
手には、ブタペスト弦楽四重奏のコンサートチケットが
握られていた。
「待たして済まなかったけど、
 急いで行けばまだ間に合うよ。」
そう言ってチケットを恵美子に差し出した。
恵美子は、それを受け取って
「残念だけど
 お仕事なら仕方ないわ。」
「急いだ急いだ。」
といって、緒方は恵美子と事務所を後にした。

「南海汽船所属、
 貨物船"栄光丸7500トンは、
 八月十三日19時05分
 北緯24度、東経141度2分付近に於いて連絡中絶。
 原因不明・・・
 第三管区、第四管区所属PMは、出動準備を完了待機せよ。」
急を聞きつけた南海汽船社長は緒方と共に、
海上保安庁に駆けつけて
「色々、どうも済みません。
 原因は何でしょう」と係官に尋ねた。
一人の担当係官が
「全然見当がつきません、
 まるで明神礁の爆発とそっくりです。
 SOSを発信したかと思うといきなり消息を絶ったのです。」
と混迷している状況を述べた。
そして、別の係官が
「現在、備後丸が現場に急行していますから、
なにか手がかりがあると思います。」

社長と同行した緒方が、保安庁内にある海図上に
栄光丸が消息を絶ったと想定される海域を示し、
「ここです。」と説明した。
社長は、表情を更に堅くして、緒方の指し示している場所を
じっと凝視していた。

再び、栄光丸が沈没した太平洋上。
SOSを受信し、現場に急行してきた備後丸の行く手の海上に
栄光丸の時と同じ様な海中からの光が出現し、
次の瞬間、
備後丸も紅蓮の炎に包まれて、海中へと没した。

海上保安庁のプレスルームでは、新聞各紙の記者たちが
電話を片手に
「そうです。
 同一地域の場所で栄光丸と備後丸。
 同じ南海汽船所属の貨物船が消息を絶ったんだ。
 原因については、全く不明。」
と編集室に記事を送っていた。
一方、別室では、栄光丸と備後丸の家族達が
係官に詰め寄っていた。
「せめて生存者がいるとかいないとかの見通しも
 つかないんですか?」
切羽詰まった面もちで詰め寄る家族に
「とにかく明朝までお待って下さい。
 現在ヘリコプターも出動していますし、
 神逗と式根も現場に急行していますから、
 とにかく報告を受けてからでないと。」
と答えるのが精いっぱいの応対であった。
「あのね、
 もっと捜査の船の数を増したらどうですか
 2隻くらいじゃ、どうしようもないじゃないですか?」
「いや、
 決して2隻の船に任せておくという事ではありません。
 全力を挙げて捜査をしていますから、ご安心下さい。」
室内に重苦しい空気が漂っていた。

海上に、3人が漂流していた。
近くで漁をしていた漁船に救われると、
「おうい、助けてくれ。」
「どうもこうもねえ。
いきなり海が爆発したんだ。」

保安庁では、この知らせを受けて
「とりあえず、漁船に救助された3人は大戸島に入港しますので、
 巡視船穂高を派遣しました。」
家族から
「どちらの乗組員なんでしょうか? 
 栄光丸か備後丸か」
という質問がなげかけられけると
「目下、問い合わせ中ですから
 間もなく人名も判明するものと思われます。」

「3名でも生存者がいてくれて何よりだ。
 これで事故の原因もつかめるでしよう。」
南海汽船の社長が、重々しく言いこぼした。

「どうしたんですか。」と緒方が尋ねた。
「信じられん、・・・
 全く信じられん。
 大戸島の漁船も全く同じ運命です。」

「デスク、・・
 大戸島の漁船もやられました。
 都合3隻です。」

この知らせを聞きつけた遭難した貨物船の乗組員家族達は
保海上保安庁の一室に大挙してかけ込んだ。

翌日の新聞には、
「浮遊機雷か?
 海底火山脈の噴出か?」
・・・
「原因不明の
 沈没事故続出。」
いった見出しが各紙に掲載されたのである。

大戸島の海岸には、島民の老若男女が浜辺に集まり
沖に視点を注いでいる。

島の小高い丘の上にある見張り小屋で
新吉と祖父は
「どう考えても、
 ただ事じゃねぇぞ。」
「じいさま、
 あそこに何か流れてきた。」
「あっ!
 いかだだ、
 お〜い、
 いかだがながれてきたぞ〜。」
 いかだだぞ〜。」
新吉と祖父は、叫びながら一気に浜まで駆け下りてきた。
浜では、島民が立上がり、白波の立つ沖に眼を凝らしていた。
すると、
板切れのようないかだが、浜に向かって流されてくるのが見えた。
島民は、浜から海に入り、いかだをひきあげたのである。

「どんどん燃やすんだ。」
薪をくべて、暖めるための焚き火を燃やしていた。
新吉は、我先にと岡を駆け下っていた。
遭難した漁船の乗組員の中には、新吉の兄もいたからである。

「政次(まさじ)だぞ〜、
 政次だぞ〜。」といかだに泳ぎ着いた若者の一人が叫んでいた。
浜に引き上げられると
母親が
「政次やぁ、政次。」と叫びながら抱き締めた。
 そこに新吉も着いて、
「あんちゃん、
 あんちゃん、しっかりしろ。」
と声をかけた。
政次が弱々しい口調で
「やられただぁ。」
と一言いって意識を失った。

あけて翌日、
島の連中が漁から返ってきて、小舟を浜に揚げていた。
「だめた、
 雑魚一匹かからねえ。」とこぼしていた。
「こんなのははじめてだ。」
編みの中には、魚の姿はなく、
海草ばかりである。
新吉の祖父がじっとこの様子を見ていて
「やっぱり、
 ・・・
 ゴジラかもしんねぇ。」
とつぶやいた。
すると、網を片づけていた若い女が
「またじいさまのゴジラかよ
 今時、そんな物はいるもんかよ。」
と一笑した。
老人は表情を厳しくすると
「おい、昔からの言い伝えをばかにすっと
 いまにおめえたち娘っこを、
 ゴジラの餌食にしなきゃなんねぇぞ。」と言い放った。
そこに爆音をうならせてヘリコプターが一機、
降りてきた。
浜に着陸すると中から新聞記者たちが降りてきた。

その中の一人、毎朝新聞の萩原が
政次にインタビューを行っていた。
「確かに生き物んだ、
 そいつが海ん中で暴れ回っているんだ。
 だから雑魚一匹とれやしねえや。」
「だけど
 そんな大きな生き物が君。」
「誰も信じちゃくれねえんだ、
 だから話したくねえって言ったんだ。
 おい、新吉、行くぞ。」
といってその場を去った。
その夜、村の神社で鎮魂の舞を奉納した。
そこで萩原は、老人からゴジラの言伝えを耳にしたのである。
「ゴジラ?」
「へぇ、
 おそろしくでけえ怪物でしてね。
 海ん中のもんを食い尽くすとね、
 陸に上がってきて
 人間もくうそうだ。
 昔は、長く時化がつづくと、若え娘を生け贄にして
 沖に流したもんだ。
 いまは、こうして厄払いをしているってもんでさぁ。」

その晩、島は大荒れに荒れた。
島の岩場には、牙を立てているかのような大波が
襲いかかっている。
村中に荒れ狂う風雨に混じり、
地の底からわき出て来るような重々しい地響きを
伴う音が響きわたった。
床についていた新吉は、跳ね起きて、
音の正体を突き止めるために、豪雨の中に飛び出していった。
「新吉、
 新吉、しんきち〜。」
政次と母親が叫んで止めようとしていた。
不気味な地響きは、次第に近づき、
次の一瞬、
新吉の目の前で家が、巨大な力によって押しつぶされた。
「あんちゃ〜ん、
 かあちゃ〜。」新吉は必死で家族を呼んでいる。
村人が必死に新吉を押さえて止めている。
その後も、いくつかの家がそれによって押しつぶされた。

 大戸島災害陳情団

大戸島での災害の陳情のために一行は、
国会議事堂へとバスをつけた。
そこには、毎朝新聞社をはじめとした報道陣が
待ち受けていたのである。

大戸島の災害対策委員会が、国会の中で開かれている。
「大山委員。」
委員長が、民自党の議員を指名した。
大山は、しずしずと席を立つと、手にした資料に眼を落とし、
「破壊家屋17、死者9名
 次の項のその他家畜とありますが、
 その内訳はどうなっていますか?」
質問の内容から、委員長は大戸島村長を指名した。
「大戸島村長、
 稲田君。」
緊張した面もちで、稲田村長は、
「はっ、
 申し忘れました、
 牛が12頭の豚が8頭です。」
続いて新吉が審問に答えた。
「嘘じゃないんです。
 暗くてよくわかんないんけど、
 確かに生き物んです。」
毎朝新聞の記者萩原も
「常識を疑われそうで弱るのですが、
 しかしどう考えても単なる台風の被害としては
 考えられないのです。
 家の壊れ方、ヘリコプターのつぶされ方などは
 どうしても、上から押しつぶされたとしか
 考えられないのです。」
・・・
「では、最後に古生物学の山根恭平博士のご意見を
 お聞きします。」
山根博士は、しずしずと壇上に足を運んだ。
「現地の調査もせずに
 見解を申し述べる事は、
 いささが熟字たるものを感ずるのでありますが
 ご承知の通り、ヒマラヤの山中には、
 まだ謎の解けない雪男の足跡と言われるもが
 発見されており、
 まして、閉ざされた地球のポケットと言われる深い海の底は
 どんな秘密が潜んでいるか
 想像もつかないのであります。
 これは、至急調査団を編成して調査する必要があると
 存じます。」

山根博士、恵美子、そして緒方等調査団を乗せた
巡視船「しきね」が盛大な見送りを受けて出航しようとしている。
見送りの中には、サングラスをかけた芹澤教授の姿もあった。
調査団を乗せた巡視船しきねは、問題の海域を避けながら、
一路、大戸島へと進路をとっていた。
「芹澤さんが見送りに来るなんて
 よほどの事だな、滅多に実験室から出たことのない人が。
 最後の別れのつもりかな?」
「まあ、どうして?」
 緒方は、据え付けられた望遠鏡に目をやって
「危険水域を避けながら行くが
 万一ということがあるからね。」

大戸島についた調査団一行は、直ちに調査を開始した。
瓦礫と化した家々の跡で
「当分の間この井戸水を使わないで下さい。
 危険ですから。」
「先生、放射能の雨だとしたら、
 向こう側の井戸が助かるのはあり得ない事だと
 思うのですが。」
「そうなんだよ、
 どうしてこの辺の井戸だけが放射能を感じるんだか
 腑に落ちないねぇ。」
「萩原君
 これがある生物の足跡だといったら
 君、信じるかね。」
萩原は、一瞬自分の耳を疑った。
山根博士は、その場に屈むと
「恵美子、ご覧。
 これは、トリロバイトだよ。」
小さな物体を手にとって、恵美子に見せた。
「先生、
 やたらに手に触れない方がいいです。」
と調査員の先生が注意すると
「あぁ。」
と返事して、興奮の面もちで、
箱にしまった。
「先生之は何です。」
「これはね
大変な物なんだよ。」

ゴジラの登場

大戸島の調査を奴手いる最中
どこからか、不気味な地響きが聞こえてきた。
火の見櫓(やぐら)の上で、
島の若者が、半鐘を満身の力を込めて
打ち鳴らしていた。
「おうい、
 島の西にでたぞう。」
大戸島の島民達は、手に手に、猟銃、鋤、鍬、そして日本刀等
しっかりと握って、八幡山の頂きに続く
一本道を駆上がっていった。
その時、かつて聴いたことのない様な動物の鳴き声が響いた。
次の瞬間、八幡山の頂きに、巨大な恐竜が頭部をさらけ出した。

「今からおよそ200万年前
 このプロントサウルスや、恐竜が全盛をきわめた時代
 学問的には、ジュラ紀と言いますが
 この頃から次の時代、
 白亜紀にかけて、極めてまれに生息していた海生爬虫類から
 陸上獣類へ進化しようとする中間型の生物であったとみて
 差し支えないと思います。
 仮に、これを大戸島の伝説に従って
 ゴジラ、"ゴジラ"と呼称します。
 これが我々が、大戸島で遭遇したゴジラの頭部でありますが
 これからみてもほぼ50m位の大きさの動物と推定されます。
 これがどうして、今回、わが国の近海に現れたか
 の点でありますが、おそらくは、海底の洞窟にでも潜んでいて
 彼らだけの生存を全うして、今日まで生きながらえておった、
 それが度重なる水爆実験によって、
 彼らの生活環境を完全に破壊された。
 もっと砕いて言えば、
 あの水爆の被害を受けたために安住の地を追い出された。
 とみられるのであります。
 それを裏書きする物的証拠があります。
 第一にゴジラの足跡から発見されたトリロバイト、
 別名、三葉虫ともいいまして、
 これです。
 これも200万年前に絶滅したと信じられている
 甲殻類の一種であります。
 第二に、このトリロバイトの殻から発見された岩砕、砂ですが
 これは疑いもなくジュラ紀の特色を示す、ビブロカタッソ、
 これです。
 ビブロカタッソの赤粘土の中に含まれている物です。」
・・・
「博士、
 どうしてそれが、水爆に関係があると断定できるのですか?」
「この粘土のガイガーカウンターによる放射能検出定量測定による
 ストロンチウム90の発見、
 後ほど田辺博士から詳しく説明がありますが、・・・
 すなわち、ゴジラに付着していたこの砂の中に水爆による
 放射能が大量に含まれていたのです。」
この発表に、議員達は驚き、会議場はざわめいたのである。
「静粛に、
 静粛に願います。」委員長の注意を促す言葉に、落ちつきを取り戻した。
「これらの、物的根拠からして、
 ゴジラも水爆による
 相当量の放射性因子を帯びていると言うことが出来ます。」
再度、議場がざわめいた。
「静粛に、
 静粛に願います。」
「委員長、
 委員長。」と議員が挙手をして発言を求めた。
「大山委員。」
「先ほどの山根博士の報告は、実に重大でありまして、
 軽々しく公表する物ではないと思われます。」
対立する女性委員(社民党の土井党首?)から、
「何を言うか、
 重大だからこそ公表すべきだ。」
「だまれ、
 あのゴジラなる代物が、水爆が運だ落とし子であるなどという・・」
「その通り、
 その通りじゃないか!」
「そんことをだ、
 そんなことを発表したら、ただでさえうるさい国際問題が、
一体どうなるか。」
「事実は、事実じゃないか。」
「だからこそ重大問題である。
 軽率に発表したあかつきには、国民大衆を恐怖に陥れ、
 ひいて、政治、経済、外交にまで混乱を引き起こし、・・・」
「馬鹿者、
 何を言っているか。」
「馬鹿とは何だ、
 馬鹿とは。」
「事実は事実だ。」
委員会議場は、混乱し、代議士による
委員同士の罵声の浴びせ合いで
収集がつかない様子を呈していた。
この様子をうかがっていた山根博士達、調査団の一行は、
失望の表情を拭い隠せなかったのである。

翌日
毎朝新聞の一面に、災害対策本部が政府内に
設置されたことが報道された。
そして、ゴジラによると見られる船舶の被害も
17隻に及んでいることが報道されたのである。

通勤の電車の中で2人の男性サラリーマンとOLが
新聞の記事に眼をやっている。
「いやね、
 原子マグロだ、放射能雨だ、
 そのうえ今度は、ゴジラときたわ、
 東京湾でも上がり込んできたらどうなるの。」
年輩のサラリーマンが
「まず真っ先に君なんか、ねらわれる口だね。」と冗談混じりに答えた。
「うン、
 やなこった、
 せっかく長崎の原爆から生き残ってきた大切な身体なんだもの。」
若いサラリーマンが
「そろそろ疎開さきでも探すとするかな。」と呟いた。
「どっかさがしといてよ。」
「あ〜ぁ
 また疎開か。まったくいやだなぁ」

 特設災害対策本部

「東経138度より、同じく7分、北緯33度4分、
 同じく8分を結ぶ海上にて、
 ゴジラに対し、フリゲート艦隊による爆雷攻撃を実施するにつき、
 付近を航行する船舶は、十分なる注意を要します。終わり。」
「それだけですか。」という報道陣の問いかけに対して
「終わり。」
と紋切り型の通達を行った。

予定海域で、10隻のフリゲート艦隊によって
爆雷攻撃が実施された。
その夜、山根博士の家で、博士、恵美子、緒方、
そして新吉の4人は、テレビのニュースを見ていた。
ニュースで
「既に、十数隻の船舶を海底深く葬り
 日本全土を恐怖に叩き込んでいる世紀の怪獣ゴジラに対し
 フリゲート艦隊による初の爆雷攻撃が実施されました。」
 午前十時、堂々の陣形を整えて、
 大戸島西方海上に進出した10隻のフリゲート艦隊は、
 10時17分、
 命令一過、攻撃の火蓋を切りました。」
と一連のニュースを見終わると、山根博士は、座をはずした。
恵美子が、気を使い博士の部屋に様子を見に席を立った。
新吉は、博士がなぜ座をはずしたのか解らず、
緒方にその理由を尋ねたのである。
「どうかしたんでしょうか?」
「先生は、動物学者だから
 ゴジラを殺したくないんだ。」
と理由を説明してやったのである。
・・・
「おとうさま、
 おとうさま。」
そう言うと恵美子は、博士の部屋のドアを開けた。
部屋の明かりは消されていて、
窓際に置いてある椅子に山根博士は、深々と腰掛けて
外に眼をやっていた。
恵美子は、部屋の明かりをつけて、
「おとうさま。」と声を掛けると
「  しばらく一人にしてくれ。」といった。
恵美子は、博士の気持ちを察して、部屋を後にした。
「恵美子、
 電気を消していってくれ。」
「はい。」

ネオンが瞬き、光の筋とクラクションでにぎわう東京。
そして、夜の東京湾海上、
明かりを明々と灯した一隻の客船が航行していた。
デッキでは、ハワイアンが演奏され、
若いカップルが楽しそうにダンスを踊っている。
暗く、どんよりとした東京湾の海面が
ゆっくりと盛り上がっていく。
巨大な背鰭(せびれ)が現れ、次いで頭が・・・
ゴジラである。
独特の鳴き声が周囲に響くと、
船上でダンスを楽しんでいた若者達は
「ゴジラだ、
 ゴジラが出た。」と叫びながら逃げまどっていた。
ゴジラは、一胆
海上に姿を見せたものの、
その巨大なる尾で海面を大きく打つと、
再度、海中へと姿を没したのである。

再び特設災害対策本部

「困ったもんですナァ。
 輸送問題はどうなりますか?
 このままじゃあ、日干しになるのを
 待っているだけじゃないですか。」
ゴジラの出現によって、海上輸送経路は、混乱をきたし、
生活に必要とされる物資でさえ、容易には手に入らなくなって
きていたのである。
こんな会話の飛び交っている、対策委員会場の通路を
警備の警官に付き添われ、山根博士は会議場へと
入室していった。
対策本部の幹部達が待っていて、
入ってきた山根博士を、座に案内した。
「弱ったもんですな、先生。
 このままでは、近く外国航路も閉ざさなくては
 ならない状態です。
 何かいい方法が、
 ヒントだけでもいいですから、
 何か一つ。」
「そうですね。」
 と溜息混じりにいうと、
別の幹部から、
「山根博士、
 率直に申し上げます。
 ・・・
 如何にしたら、ゴジラの生命を絶てるか。
 その対策をお伺いしたいのです。」
「それは、無理です。
 水爆の洗礼を受けながら、
 それでもなおかつ、生命を保っているゴジラを
 何を持って抹殺しようするのですか?
 ・・・
 そんなことよりも、
 まず、あの不思議な生命力を
 研究することこそ、第一の急務です。」
・・・
毎朝新聞社の萩原記者のデスク。
朝刊の第一稿が刷り上がって、萩原の元に届けられた。
「おう、できたな。」
そういうと萩原は、.第一稿をその場のみんなに配って、
目を通し始めた。
一人の記者が
「山根博士の意見には、
 重大な内容が含まれている。
 恐れているばかりが能じゃないですよ。
 大いに研究すべきですよ。」
と意見を述べた。
「しかし、現実の災害はどうするのだ。」
という意見がでると、萩原は、
「そこなんだよ、
 難しいところは。」
と意見した。
その場に、編集長がやってきて、
「萩原君、
 至急、君に逢って貰いたい人物がいるんだよ。」
そういって、メモを萩原に渡した。
メモを受け取った萩原は、
「芹澤博士、?」
「例の山根博士の養子になる人物らしいがね。」
「へぇ〜、
 あのお嬢さんの。」

 南海サルベージの事務所
「おとさまは、きっと許して下さるわ。」
「誰にも遠慮することはないと、
 かんがえるんだが、・・・
 芹澤さんのことを考えると。
 どうも弱気になる。
 戦争さえなかったら、
 あんなひどい傷を受けずに済んだはずなんだ。」
「緒方さん、
 わたし
 あの方には、子供の頃から
 お兄さまのようにあかやかせてもらって
 今でも、あの頃の気持ちとちっとも変わって
 いませんのよ。」
「恵美子さん、・・・
 ・・・
 ありがとう。」と言って緒方は、恵美子の肩を抱いた
そこに、ドアをノックする音がした。
「どうぞ。」
というと、新吉が帽子をとって、入ってきたのである。
「お嬢さん、
 萩原さんがお逢いしたいって。」
「萩原さん?」
「うん、
 新聞記者の。」
そこに、新吉の背後から
萩原が、帽子を手にしながら、入ってきた。
「やぁっ、
 どうもすみません。
 ・・・
 ありがとう。
 えぇ、お嬢さんにお願いがあってやってきたんです。
 実はですね、芹澤博士をおたずねしたんですが、
 ていよく、門前払いを食っちゃったもんで、
 お嬢さんに、是非、紹介の労をとって頂きたくて、
 事情は後でお話しますんが、
 急を要することなんで、
 すいません、恩にきます。」
と恵美子に芹澤博士との仲立ちを頼んできた。
恵美子と緒方は、
「ちょうどいいや、僕も芹澤さんに逢って、
 さっきのことはっきり了解を求めようと思って。」
「でも、その話し
 私の口から切り出した方が、
 芹澤さんも気安く聴いて下さると思うの。」
「そうだな、
 じゃあ、いってらっしゃい。」
「ありがとう、
 すみません、すぐお願いします。
 車をまたせてあります。」 「じゃあ、わたし
 うまくお話しまてきますわ。」
「僕も新ちゃんの学校のことがありますから、
 後で、お宅に伺います。」
そういって、緒方は恵美子に日傘を手渡した
萩原と恵美子を乗せた車が、芹澤科学研究所に着いた。
芹澤博士は、腕組みをして、苦々しい口調で、
「それは、
 何かの間違いです。
 第一、私の研究内容とは全然方向違いの話しです。」
「実は、スイスいる特配員が、
 直接そのドイツ人にあって聴いたって言うんですよ。
 芹澤博士が当時考えていたというプランを実現したら
 日本のゴジラ対策に関して、
 何らかの打開策が発見されるんじゃないかって。」
「私には、
 ドイツ人の友人は一人もおりません。」
「そうですか、
 ・・・
 ところで、いま何の研究をしているんですか?」
「お話するほどのことは、
 やっておりません。」
萩原は、芹澤博士のそっけない態度に、
恵美子のほうを伺った。
恵美子は、かすかに首を横に振って
これ以上は、・・・と示したのである。
萩原は、
「じゃあ、
 どうもお忙しい所を。」と言ってその場を引いた。
恵美子は、
「私は、もう少し。
「そうですか、
 じゃあ、お先に。」と萩原が挨拶した。
恵美子は、萩原を戸口まで見送って行くと、
背沢博士は、何か考え事をしている様子で、
部屋のラジオの前に座して、スイッチを入れた。
ラジオからは、もの静かな音楽が流れてきた。
一方、芹澤博士の研究所の戸口では、
萩原と恵美子が
「せめて、今何を研究しているのか、
 お聞きしたかったのですよ。」
「お天気屋なのよ。
 これを機会にときどきお遊びにいらっしゃるといいわ。」
「はぁ。
 そうします。どうも。」 と挨拶して返った。
恵美子は、部屋に戻ると、
「ねぇ、
 本当になにを研究していらっしゃるの。」
と気軽な様子で芹澤博士に尋ねた。
芹澤博士は、何か思いつめたようで、なかなか言い出し切れない
そんな様子だった。
しかしながら、思い切ったようで、
「恵美子さん、
 見せてあげようか。」
恵美子は、予想外のことのようで、
一瞬、たじろぎ
「えっ。」と答えた。
芹澤博士は、念を押すように
「そのかわり、
 絶対秘密ですよ。」と言った。
恵美子は、小さく頷(うなづ)くと
「僕の、命を懸けた研究なんだ。
 念を押すが、誓ってくれるね。」と説明した。
恵美子は、しつかりと同意した。
「きたまえ。」と芹澤博士は、恵美子を案内した。
階段を降り、
重々しい研究室のドアの鍵を開けると、
中は、何やら、様々な実験機器、器具が所狭しと
置かれている様子が分かった。
芹澤博士は、ドアを開け、入った所にある電灯のスイッチを入れた。
恵美子は、明かりのついた研究室にはいると
魚が泳いでいる大きな水槽に気付いた。
「まぁ。」
そして、見回すと、
電機設備、化学実験用のガラス管、フラスコ、試験管などの
様々な器具が何やら、互いに関連付されて配置されていた。
恵美子は、最初に目に入った大きな水槽に近づき、
中を窺った。
中には、石鯛、鯛といった魚が何匹も泳いでいた。
芹澤博士は、
手に厚いゴム手袋をして、器に入れてある白い粉のような物を持って、
水槽の所にやってきた。
水槽の前で、芹澤博士は、坂に眼をやった後、
博士は、小さな小匙(こさじ)でほんの少し、器の中の粉をすくうと、
それを魚の泳いでいる水槽に入れた。
芹澤博士は、恵美子に
「下がって。」といって水槽から離した。
次の瞬間、恵美子は信じられない光景を眼にして、
思わず、眼を覆ってしまった。
 ゴジラの上陸
 恵美子が帰ってきた。
そこに、一足先に訪問していた緒方と新吉が出迎えた。
無言できたくした恵美子の様子を見て、
「どうかしたんですか?」と緒方が尋ねた。
「いいぇ、
 なんでもないんです。」というと奥へと足を進めた。
緒方と新吉が居間で恵美子の様子を気に懸けていると
山根博士がきて、
「恵美子は帰ったのかな?」と尋ねたところ、
「はいっ」と返事をして、ビールを持ってきた。
山根博士が座卓につくと、
恵美子は、持ってきたビールを用意した。
山根博士が、ビールをとろうとしたところ、
警報が響いた。
「ゴジラだ。」
その場にいた、一同はとるものもとらず、
外に飛び出していた。
緒方が玄関を出ようとしたところを
恵美子は、
「緒方さん。」と呼び止めた。
「あのことを、芹澤さんにいいそびれちゃったの。」
と説明した。
解ったという素振りで、緒方は恵美子の肩を抱いて、
その場を去った。

 東京湾は、凪のせいか鏡のように静まった海面で
海中から、ゴジラが静かに頭を持ち上げた。
これを見るや否や、防衛隊が重機関銃の一斉射撃を開始した。
しかし、ゴジラはなんの支障もないかのようにゆっくりと
岸に向かって移動を開始した。
上陸しそうな東京の下町では、住民達が家財道具を桑折(こおり)に
詰め、担いだりして避難したりで、混乱していた。
こうした混乱の中、山根博士たちが、人々をかき分けて
混乱を押さえようとしている警備隊の隊員と面した。
「私は、山根です。
 山根博士です。」と申し出た。
警備隊員は、
「生命の保証はできませんから、
 通すことは出来ません。」と言われた。
「では、指揮官に伝えて下さい。
 ゴジラに光をあててはいけません。
 ますます怒るばかりです。」
「今、そういうことを言われても困ります。」
緒方は
「あっちの高台のほうに行きましょう。」といった

上陸したゴジラは重々しい足どりで、その巨大な姿を現せた。
東京都下の明かりに照らし出されたその巨体はあまりにも大きすぎた。
そこにゴジラの上陸を知らないで、走行している列車が
通りかかろうとしていた。
ゴジラが線路を横切ろうとしている。
足下にある全ての物を押し潰し、砂塵を舞上げながら
迫ってきていた。
線路上にかかる陸橋の間から、列車の運転手が巨大なものを
視認したときには、こう既に手遅れの状況であり、
次の瞬間、列車はゴジラの巨大なた足に踏みつぶされていた。
脱線した客車からは、たすかつた乗客達が、傾いた車両の窓や
乗降口から、命辛々逃げ出してきた。
ゴジラは列車を次々と破壊し、
人々は物陰から恐怖におののき、
そして息を殺してこの様子をじっと窺っていたのである。
ゴジラの行く手では、
人々が追われる様に、必死になって逃げまどっていた。
ゴジラは、鉄橋、送電線の鉄塔と言った構造物を持ち上げると
ひねり潰し、手当たり次第に破壊していった。
また、その尾のちからもすさまじく、
地上にある建築物をひとはらいで粉みじんに崩壊させたのである。
ゴジラの通った背後には、瓦礫が残された。

 新聞の一面に
「各国の調査団
 続々と到着。」と報じられた。
東京羽田空港には、各国の航空会社の旅客機が着陸してきていた。
特設災害対策本部では、
「ます、海岸線一体には、高さ30m、巾50mの有刺鉄条網を
 張り巡らせ、5万ボルトの電流を流して、ゴジラの感電死を図る。
 したがって、この鉄条網の外側地区は勿論、内側地区を含め、
 500m以内の住民は、これを全部避難させます。
 防衛隊、並びに海上警備隊は、
 別紙警備計画に基づき、直ちにそれぞれの任務について頂く。」
翌日、直ちに住民の避難が開始された。
避難の最中、
「警戒警報発令、
 警戒本部発表、20日、16:30現在、
 15マイル沖の海中を北西に向け、移動中のゴジラを発見。
 京浜地区の沿岸は、特に厳重なる警戒を要す。」
という警報が響いたのである。
関東都下、防衛隊の各駐屯地からは、武装隊員を乗せたトラック
戦車、火砲、そして自走砲といった陸上車両が次々と出動していった。
そして、それぞれがゴジラの上陸地点と目される地域に配置された。
また、防衛隊の特設部隊は、京浜地区の海岸線一体に鉄塔を建て、
高電圧線の敷設を行っていた。
電力会社の各地区変電所では、高電圧送電の準備を整えていた。
「第二管区、・・・よし。」
「第三管区、・・・よし。」
送電試験も順調に完了していった。
「臨時ニュースを申し上げます。
 臨時ニュースを申し上げます。
 ただいま、港区、品川区、大田区民に対して
 完全退避命令が発令されました。
 なお、ラジオのスイッチは切らずに、
 そのままでお待ち下さい。」とラジオ放送が流された。

山根博士の家、
緒方が恵美子に
「恵美子さん、
 今日は、お父さんにはっきりと了解して貰おうと思って、
 良いですね。」と告げると
恵美子は、笑顔をみせた。
そこに、山根博士が帰宅してきた。
「お帰りなさい、おとうさま。」
山根博士は、表情を暗くしていた。
背広を脱ぐと、座卓に座して、
「ゴジラを殺すことばかり考えている。
 なぜ、物理衛生学の立場から研究しようとしないんだ。」
・・・
「このまたという機会を。」
 と不平をこぼした。
「先生、
 僕は反対です。」
「緒方君、
 ワシは気まぐれで言っているんじゃないよ。
 あのゴジラは、世界中の学者が誰一人として見ていない、
 日本でしか現れていない貴重な研究資料だ。」
「しかし先生。
 だからといって、あの凶暴な怪物をこのままほっておくわけには
 いきません。
 ゴジラこそ、我々日本人の上に覆い被さっている
 水爆そのものじゃないですか。」
「その水爆の放射能を受けながら
 生きている生命の不思議を
 何故、解こうとしないのかね。」
「しかし、・・・」
「君までもがゴジラを抹殺しようと言うのかね。
 帰りたまえ、
 帰ってくれたまえ。」
といって山根博士は、座をはずし、自分の部屋へと姿を消した。
「ごめんなさいね、緒方さん
「いや、
僕の言い方が悪かったんだ。」
「いいえ、どうかしてしまったんだわ、
 おとうさまは。」
「恵美子さん、
 そのうち、また、折を見てお話させて貰います。」
そこに、
「臨時ニュースを申し上げます。
 臨時ニュースを申し上げます。
 その後、ゴジラは計地区に向かって接近しつつあります。
 上陸地点の鉄条網には、協力なる電流を流しますので
 慎重なる注意を要します。」
とラジオが報じた。
一方上陸地点では、
防衛隊が、万全なる防衛網を敷設していた。
「方向、
 25度より30度、
 距離850。」
隊長が指示した地点に、大型のライトが幾筋も集められた。
そして、上陸地点とされる場所に向かって
戦車、野砲、装甲車両等が集結しつつあった。
・・・
ゴジラが、京浜地区の東京湾上に海中から、
姿を現せた。
野砲陣地では、ゴジラに照準を定めていた。
ゴジラは、けたたましく海を 波立てて陸に向かって移動を始めた。
砲身がゆっくりと揚げられ、そして、停止した。
ゴジラが上陸し、
電流の流されている鉄塔に接近してきていた。
ゴジラには、探照灯のライトがあてられ、東京湾の夜空に
その巨体が浮き上がっている。
防衛隊の野砲は、既に照準をピタリと合わせており、
攻撃実施命令を待つばかりの状態となっていた。
周囲には、張りつめんばかりの緊張感が漂い、
その中をゴジラは、ゆっくりとした、しかも重々しい足運びで、
上陸してきた。
・・・
ゴジラがまさに鉄塔に手を掛けようとしていた、
その時、変電所の制御盤の「第三管区」とあるパネルが点灯した。
所員は、すかさず電流投入のスイッチを入れたのである。
・・・
ゴジラが鉄条網に触れたとたん、
稲妻のような火花が散った。
しかしながら、ゴジラは、さしたる影響もないかの如く、
簡単に、鉄条網を引きちぎって、
防衛線の内部に進入してきた。
構えていた防衛隊の重機関銃が口火を切って、発砲を開始した。
次いで、野砲が轟音と共に次から次ぎえと発射され、
ゴジラの周囲は着弾した砲弾等によって幾筋もの段幕がたち昇った。
高圧電流の流された鉄塔は、ゴジラのすさまじいばかりの腕力で
いとも簡単にひし曲げられ、破壊されていった。
・・・
ゴジラが口から、ガス状のものを吐いた。
それが鉄塔にあたると、鉄塔が真っ赤になって解け始めたのである。
ゴジラは、一声吼えると、
民家を次々に踏みつぶしていった。
道には、住民達が逃げまどっていた。
彼らを急きたてるかの如く、ゴジラは歩みを進めていた。
ゴジラの背鰭が発光したかと思うと、カッと口を開け、
ガス状の放射能炎を吐いた。
その放射能炎を浴びた建物は、次の瞬間、業火に包まれた。



・・・ 続く ・・・

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