"キングコング対ゴジラ"

 昭和37年公開版 "キングコング対ゴジラ"
 このキングコング対ゴジラは、東宝の創立30周年記念作品として公開された作品です。
映写技術として東宝スコープなるサイズを採用したもので、現在のシネスコ・サイズの前身でもある もので制作者側の苦心の跡が多々見受けられます。

 製作スタッフ紹介
製  作 田中友幸
脚  本 関沢新一
撮  影 小泉 一
美  術 北 猛夫 安部輝明
録  音 藤好昌生
照  明 高島利雄
音  楽 伊副部昭
整  音 下永 尚
監督助手 梶田興治
編  集 兼子玲子
音響効果 西本定正
現  像 東宝現像所
製作担当 中村 茂
 特殊技術
撮  影 有川貞昌 富岡素敬
光学撮影 幸 隆生 真野田幸雄
美  術 渡辺 明
照  明 岸田九一郎
合  成 向山 宏
製作担当 成田 真

 出演者紹介
高島忠夫 佐原健二 藤木 悠
有島一郎 田崎 潤 平田昭彦
浜 美枝 若林映子
根岸明美 小杉義男 田島義文
沢村いき雄 松本染升
三島 耕 堺 左千夫
松村達雄
大村千吉 山本 廉 加藤春哉 大友 伸
桐野洋雄 堤 康久 中山 豊
東郷晴子 田武謙三
熊谷二良 土屋詩朗
小川安三 鈴木和夫
三井紳平 橘 正晃
坂本春哉 峰丘ひろみ
千葉一郎 紅美恵子
ダグラス・フェーン ハロルド・コンウェイ
オスマン・ユセフ
広瀬正一 中島春男
手塚勝巳
東宝芸能学校生徒
振  付 青木賢二

特技監督 円谷英二
監  督 本多猪四郎

 世界驚異シリーズ
・・・・・・
「皆さん、
 地球は、生きています。
 1,670Km/hrというスピードで回転しているのです。
 しかし、一瞬にしてこの回転が止まったとしたら、
 どうなるでしょうか?」
「最近、著しく海水の海面がたかくなってきています。・・。」
テレビの画面では、パシフィック製薬が提供している番組が流れている。
・・・・・
 シーホーク号
 国連所属の原子力潜水艦シーホーク号、艦番505が北極海へ科学者を乗せ
調査に向かった。
目的は、北極海の融氷によると観られる海面の上昇を調査する事にあった。
シーホーク号が北極海上を浮上航行している。
すると、進路上に青白く光を放つ不思議な氷山が確認された。
それとともに、ガイガー・カウンターに放射能反応が観測されたのである。
艦長は、放射能による汚染を避けるため、
急速潜行を命令し、シーホーク号は、海面下に没した。
潜望鏡を介して、光る謎の氷山を観測していた科学者が、
「チェレンコフ光のようだ。」
と言った。チェレンコフ光とは、原子炉周辺に発生する発光現象である。
突然、シーホーク号の艦体に異常な衝撃が加わった。
シーホーク号の上から巨大な氷塊が崩壊してきたのである。
氷山の下に潜行しているシーホーク号に次から次に氷塊が衝突している。
スクリュー、機関が異常をきたして、スクリューが停止して、
完全に推力を失った。
艦長は、緊急遭難信号を発信すると共に、
緊急標識液を放出させた。
シーホーク号のクルーが
「ガイガーカウンターが放射能を検知。
 レーダー故障。
 潜望鏡に変なものが見えます。」
と報告すると同時に、司令室上部ハッチから海水が浸水した。
艦内に巨大な雄叫びが響き、
司令室の天井から炎があがった。
「Oh !, That's Godzilla !!!」
・・・・・
シーホーク号は、消息を絶ったのである。

 パシフィック製薬宣伝部
 TTVのスタジオで桜井(高島忠夫)がドラムを叩いている。
そこにアシスタントの藤木(藤木悠)が来て、
「おい、桜井なにやってんだよ〜。
 キャメラマン廃業かい。」
「冗談言うなよ。
 太鼓たたける奴頼んだら、祭りの太鼓叩く奴が来てよ
 おかげで、ピンチヒッターって訳だい。」
「そんじゃあ、もう一回ピンチヒッター。」
と藤木が桜井に手を合わせた。
「金ならねえぞ。」
「話は雄大、
 でけんだよ〜。
 パシフィック製薬の社長から直々に、世界驚異シリーズの聴取率をあげろってさあ。」
「俺は、クレーンじゃねえぞ。」
「おい、牧岡博士って知ってんだろ。」
「そりゃあ、有名な博士だからな。」
「その牧岡博士が南方の野草、薬草を調査に行って、でけえ話を聴いてきたんだよ。」
「なんだ、ピンとこねえなあ。」
・・・・・
 パシフィック製薬打ち合わせ室に、宣伝部長多古、薬学博士牧岡、そして、TTVの桜井
藤木が机を囲んでいる。
机の上には、牧岡博士が現地で採取したと思われる赤い実の入った瓶がある。
牧岡博士が、
「え〜、この実は、私が南方で採取してきたものですが、
 この実には、マタタビ、ちくまはつかといったものと同じように、
 動物が異常な趣向性を示す物質が含まれておりまして、・・・」
宣伝部長の多湖が牧岡博士の説明を遮るようにして、
「博士、その話は、重役会議でしていただくこととして、
 あの〜、例の話は」と切り出した。
「え、ああ〜
 私が最後に立ち寄ったのは、
 ソロモン群島のブーゲンビル、さらに南に200Kmばかりのところに
 ファロ島という小島がある。
 この小島に大異変があるという土人達の噂がある。」
「ほぉ〜、
 世界中異変ブームですなあ。
 北極の氷は融けるし、今度は南の島の大異変ですか。」と藤木がいうと
「それで、その大異変ってのは何ですか。」
徐に、牧岡博士が
「うむ、
 この海域に伝わるところの巨大なる魔人が眼を覚ました。
 というんだ」
「巨大なる魔人!、
 ははは・・・、こりゃまたえらい風説ですねえ。」
と桜井が茶化すと、多湖(有島一郎)が
「風説じゃない、
 新説じゃよ、新説。」と訂正した。

 送別会
 桜井が自分のアパートに帰ってくると、
玄関に妹の芙美子の靴はあるものの姿はなかった。
「ははあん。」
ドアを出て、3軒隣のドアをばたんと開けて、
「お〜い、芙美子、
 芙美子。」
と呼ぶと、台所から前掛けをかけた芙美子(浜 美枝)が出てきて、
「あら、兄さん
 入るときは、ノックくらいするものよ。」といった。
「ノックもホームランもあるかい。
 おれえあ、もう腹減って死にそうなんだぜ。」
と訴えた。
「やあ、兄さん。」と藤田(佐原健二)が現れた。
「やあじゃねえよ。
 甘いのはいいけどよ。」と桜井が言うと
「えぇ、何のことですか。」
「おあついのもほどほどにな。」
そういって、藤田の唇をハンケチで拭うと、芙美子の口紅の跡があった。
「とにかく、腹へってんだあ、頼むよ。」
芙美子が「はいはい、」
といって、台所からステーキを2皿持ってきて、テーブルに乗せた。
桜井が、藤田の前に出されたものと自分のものを見比べて、
「おいおい、恋人のビフテキと俺ので随分ちがうじゃないか」と不平を言った。
「兄さん、はしたないでしょ」と芙美子がいなしたのである。
「ところで、よく分かったな。
 送別会ってとこかい。ビフテキなんか用意して。」と桜井がいうと。
「兄さんもですか?」と藤田が応えた。
「ほんと兄さん、
 でどこへ行くの」藤田と芙美子は予想外のことで驚いた。
「あぁ、はるか南方ソロモン群島さ。」
「へぇ、奇遇ですね
 実は、ぼくも新製品の試験で北の海へですよ。」
「なぁんだ、そういうことかい
 どうもうますぎると思ったよ。」
「ところで兄さん、
 ついに出来たんですよ。
 鋼より強く、絹糸のようにしなやか。
 まさに、原子力時代の繊維ですよ。
 まず、漁具関係の試験で漁船に乗り組むんです。」
「へぇ、そうだったのかい。」
・・・

 ソロモン群島ファロ島
 一隻の貨物船が波静かな南太平洋上をゆっくりと航海している。
「おい、ファロ島はまだかい。」
現地人との通訳として雇った男が
「ファロ島着いた。」
桜井、藤木、そして通訳コンノ(大村千吉)の3人を乗せたゴムボートが島の岩場に接岸した。
貨物船の乗組員は、
「我々は、もう引き上げます。
 いいですか?
 本当にいいんですね。」と何度も確認し、3人を下ろした岩場から離れた。
すると6人ばかりの現地人が鑓を持ち、叫び声を立てながら桜井達一行を
取り囲んだのである。そして、一行は現地人たちの村に連れて行かれた。
村では、牧岡博士が持ち帰ってきた例の赤い実を大きな石のローラーで
すり潰して、赤い汁を搾り取っている。
桜井達3人は、村の広場の真ん中に連れて行かれた。
村の現地人達は、物珍しそうに広場へと集まってきた。
そして、村の酋長らしき人物が桜井達に接した。
桜井が通訳コンノに、
「おい、おれたちゃ友好親善で島にきたとを言ってくれよ。」
「ワカッタ」
と応えると、酋長に向かって現地語で桜井達の意図を説明した。
ところが酋長は、大きく首を横に振って、
早々とこの島から出て行くようにと言い張った。
「酋長イッテイル
 悪イコト言ワナイ。
 オマエタチ、スグ帰レ。」
藤木が弱腰になり、
「おい、酋長もああ言っていることだし、
 もう帰ろうよ。なあ」
桜井は、
「おい、そんなこったから聴視率があがんねえだよ。
 まあ、まかしとけって。」
そう言うと、手に持っていた荷物の中から、
ラジオを出して、酋長に差し出した。
「コレ、ワカル
 コレ、トランジスタラジオアルネ。
 スイッチ、ヒネル
 オトデルネ、セカイチュウノコトテニトルヨウネ。」
と桜井が酋長に説明して、ラジオノスイッチを入れると、

  ♪♪椰子のいっぱいある島に
     くろんぼ親子が住んでいた
    パパがルンパで
     ママがマンボ
    その子がムンガにチビボンゴ
     ・・・♪♪

と、何やら分からない音楽が流れ、
現地人は、小さな箱から急に大きな音で音楽が出てきてので
ビックリ仰天したのである。
すかさず、通訳と藤木は、懐からハイライトを出し、回りの現地人に配った。
桜井の探検服の裾を引っ張るものがいた。
現地人のこどもである。
「まいったな、
 あめ玉買ってくんの忘れたよ。」
と桜井がこぼすと、こどもは、口元に指を添えてタバコをねだった。
「しょうがねえなぁ
 おまわりさんには、ないしょだぞ。」といって1本渡した。
桜井達からの差し出しものに釣られたのか
酋長は、桜井達の島の滞在を認めた。
「酋長、
 ヨロシイ、許可シマス
 タダシ、マシンニ食イコロサレテモ
 シラナイ。 イッテマス」
桜井は
「よ〜し、
 でも荷物運びのサービスは頼むよ。」
と酋長との約束を取り付けた。
・・・
一転、空が不気味な黒雲に覆われ、
雷が走った。
村の現地人達は、一斉に何かを恐れているかの様に
地にひれ伏し、懸命に祈り始めたのである。
桜井達は、何事が起こったのか理解できずに、その場に立ち尽くしていた。
桜井が
「そうか、
 これが魔人の正体か」と言って雷が現地の噂である魔人であると思いこんだ。
その時、ものすごいウォ〜、ウォ〜という叫び声が聞こえたのである。
桜井達、3人の表情から血の気がサッと引いた。
 北海道根室沖第二神聖丸
「船長、
 どうしてもダメですか?
 後2日あれば終わってしまうんですが」藤田が船長に懇願していた。
「無理だよ
 海上保安庁から、緊急避難勧告が出されているんだからね」
と説明していた。
「そこぉなんとか」
船長は、表情を和らげて、
「芙美子さんが心配するぞ」というと、藤田もにんまりとこれを承知した。
「船長
 一応根室へは寄るんでしょう?
 だったら、そこでぼくを降ろして下さい。」
「うむ。」
そこへ、一通の電文を持った通信士が操舵室に飛び込んできた。
「船長!
 シーホーク号が行方不明のようです。
 現在、アメリカの海難航空隊が出動中とのことです。」
船長は、この報告に表情を険しくした。

 ゴジラ出現
 アメリカ海難航空隊所属の救援ヘリコプターが北極海上空で
国連シーホーク号の痕跡を求めて捜索している。
すると1つの氷山が浮いている海面に黄色のSOS標識液が広がっているのが確認された。
間違いなくシーホーク号の放った標識液である。・・・とその時
「What's that ? 」
ヘリコプターの隊員が叫び、指さしている方向に眼をやると
長く尾を引き、甲高い独特の雄叫びを出し、
巨大な氷塊を砕きながら、氷山の中からゴジラが出現したのである。
ヘリコプターの隊員は、ギョッとして腰を抜かしたものの
すぐさま、本部にゴジラ出現の一報を入れた。
この一報は、すぐさま世界を駆けたのである。

 防衛庁
 数人の記者達と共に、篠澤博士(平田昭彦)が防衛庁の玄関から出てきた。
「ゴジラは死んだんじゃぁなかったんですか。」
という記者の質問に対して、
「いいゃ、
 ゴジラは、死んじゃいないよ。
 冷凍冬眠の状態で生きていたんだ。
 つまり、冬眠というのは一切の季節感、病原菌から遮断された
 一種の不老不死の状態に置かれていたということになる。
 ニューメキシコでは、二百万年前の地殻から、
 ずっと冬眠したとしか思えないカエルが発見されたし、
 日本でも三千年前の蓮の実が花を咲かせたよ。
 生命力に関しては、何一つ分かっていない状況だよ。」
そう言うと、篠沢博士は迎えの車に乗り込んだ。
「先生、
 ゴジラは、日本に来る可能性はありますか。」
篠沢博士は、冷静な態度で
「来るね。
 必ず来る。
 いや、戻ってくると言った方がいいね。
 動物が持っている帰巣本能だ。
 つまり、生まれた巣を忘れないという本能だよ。
 じゃあ。」と言って車のドアを閉め、その場を去ったのである。
・・・
一方、パシフィック製薬宣伝部のオフィスでは、多湖部長がイライラしていた。
「新聞、ラジオ、テレビに週刊誌、・・
 みんなゴジラ、ゴジラ、ゴジラ
 これじゃあまるでセントラル製薬ブームじゃあないか。」
「あのぉ〜
 映画もです。」
「食堂でも、ゴジラ焼きなんてのが出ています。」
「う〜、うるさい。
 莫大な金をかけた、巨大なる魔人はどうしたの。」
「え〜、まだお見えになっていませんが。」
「電報を打て、電報!
 きへんのき、よしののよ、タバコのたに濁点つけて、・・」
「キョダイナルマシンハ、マダカでしょ。」
・・・

 キングコング出現
 桜井達一行は、ファロ島の巨大なる魔人を求めて生い茂るジャングルを進んでいた。
藤木がラジオを片手に
「おい、
 出た、出たんだよ。」
「何が。」
「ゴジラだよ、ゴジラ
 おい、おれたちゃよかったよなぁ、ゴジラじゃなくて。」
「なにいってんだよ、
 おれたちゃこれから巨大なる魔人にインタビューしにいくんだぜ。」
そういって先を急いだ。
・・・
切り立った崖に沿って幅の狭い道を一列になって歩みを進めている。
突然、空が黒雲に覆われ、激しい雷鳴がとどろいた。
そして、崖の上部で、ウォ〜という雄叫びがしたかと思うと
大きな岩が幾つも崩れ落ちてきたのである。
がけの上で巨大な何かが、想像を絶する力で崖を崩して岩を落としていた。
がしかし、その姿は目撃することが出来なかった。
現地の村人達は、マシン、マシンと叫びながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
桜井、藤木も一目散にその場から逃げたのである。
 命からがら村に着いた桜井達は、とりあえずその日は、休むことにした。
藤木が、疲労のせいか熱を出して、寝込んでしまった。
その晩、通訳のコンノは、藤木に飲ませる為
村の子供であるチキロに赤い実の汁を取ってくるように頼んだ
桜井は、
「何を頼んだんだ。」と尋ねると
「アカイミノ汁、
 タノンダ
 アカイミノ汁ノム、ヨクネムレル。」
村の子供チキロは、村のはずれにある小屋に赤い実の汁をとりに出た。
海岸の岩場に不気味にぬめり、輝いて動くものがいた。
夜空にある満月の光に照らし出されたそれは、巨大なタコである。
不気味にぬめり輝く大タコは、巨大な足をくねらせながら、
チキロの入った小屋に近づいていった。
チキロの母は、彼を捜し、その小屋で見つけた。
とそこへ、大タコが襲った。
村中の男達が手に鑓やたいまつを持ち、大タコに向かった。
桜井と藤木もライフルを手に飛び出し、
大タコに向けて引き金を引いた。
村人の投げる鑓やたいまつ、そして、桜井達の撃つライフルも
大タコには、全く受け付けられなかったのである。
大タコの魔手がチキロと彼の母へと迫ったまさにその時、
ジャングルの方からウォ〜という雄叫びと共に、
ついに伝説の魔人、キングコングが姿を現した。
全身毛に覆われ、身の丈が50mはあろうかという巨体である。
村を囲っている大きな柵をいとも簡単に崩し去り、
その一部を大タコに向かって投げ付けた。
ドスーンという地響きをともなって、大タコにあたった。
大タコも一瞬、怯んだがキングコングにその足を絡ませた。
そして、キングコングの頭部にからみついた。
ここで、桜井、ファロ島現地人は、キングコングの凄さを目の当たりにする。
キングコングは、その怪力によって、ガッチリと絡み付いていた大タコを
引きはがして、地面にたたきつけた。
そして、近くの岩を持ち上げて、そのまま大タコに投げつけた。
ドーンと大タコに命中すると、さすがの大タコもたまらずに海に引き上げていった。
勝ち誇ったキングコングは、両腕を広げ、数度胸を叩いた。
・・・
キングコングが辺りを見回すと、赤い実の汁がはいった壷を見付け、1個とった。
そして、グイと飲み干したのである。
キングコングは、満足そうな表情をして、別の壷を取り上げて、また、飲み干した。
そうして、数本の壷に入った赤い実の汁を飲んだ。
次第に目つきがうつろになってきて、腰を下ろしたかと思ったら横になった。
村人達は、ソォーッと足音を潜めて、広場に集まってきた。
ドドドン、ドドドン。・・・太鼓を叩き始めた。
桜井達は、事の成りゆきを息を殺して観ていた。
太鼓が一定のリズムを刻んでいく。
次第にアップ・テンポになってくると、歌と踊りが始まった。

  ♪♪アシハナノイ パセテサモアイ
    アシハナノイ パセテサモアイ
      ケーケナケナ ケーケナケナ
    ・・・・・・・・・♪♪

桜井が、
「おいっ、
 いかだを組むぞ。」
「おい、まさかあれを。」
と藤木が困惑した様子で応えた。
・・・
パシフィック製薬宣伝部では、多湖部長が上機嫌で
「バンザーイ、バンザーイ
 おいっ、ゴジラがなんだ、
 キングコング、キングコング、キングコング、・・・。
 ぼやぼやせずに、宣伝の文句を考えろ。!」と激をとばせていた。」
そして、居ても立ってもいられない様で、
「おい、ヘリだ、ヘリを。」とヘリコプターを用意させた。
多湖部長が準備のために宣伝部から出て行こうとしていると、
「ねえ、
 ゴジラとキングコングでは、とっちが強いのかしら。」と女性が言うと
「ばか、プロレスと違うんだぜ。」といなされた。
「買った!
 そのアイデア、買った。」
突然多湖部長が再度現れた。

 キングコング輸送
 仰向けのキングコングがいかだにくくりつけられて、輸送船に曳かれている。
船室では、桜井と藤木がくつろいでいた。
そこへ、「お客さんの到着ですよ。」と船員が告げてきた。
「誰だよ、一体、こんな所まで。」
甲板に出てみると
ヘリコプターから吊り降ろされて来たのは、
何と、パシフィック製薬宣伝部長の多湖であった。
降りてくるなり、
「パシフィック製薬を代表して、両君にはお礼を申し上げる。
 ところで愛しのキングコング君は?」
「こっちですよ。こっち。」
桜井が指さすと、
「おお、キングコング君!」
といって、勝手に感動している。そして、起爆装置のレバーにもたれかかったところを
「あぁ、部長!
 それを押すと愛しのキングコングが、パーですよ。  いかだに仕掛けてあるTNTが爆発するんですよ。」
説明されて多湖部長は、あわてたもののすぐに立ち直り、
「さっそく、キャッチコピーを考えなくちゃね。
 ウーム
 ゴジラなんかひとひねり、パシフィック製薬の薬を飲んでいるからね。からさ。からよ。」
・・・
「お!、軍艦だ。」
海上で一隻の軍艦が近づいて来た。
「あなたが、この船の船長ですね。」
「はい。」
「別命あるまで、日本国領海進入を禁止します。
 キングコングの引受人はどなたですか。」
多湖部長が、
「はい、パシフィック製薬です。」
「そうですか。
 では、国家公安委員会、警察庁、通産省貿易局通達
 キングコングは、治安維持、および密輸の疑いにより国内持ち込みを禁止する。」
「密輸?」
「防衛庁要望、
 今後、何らかの形で適切な処置がなされるまで、
 関係者は、キングコングの行動に対して全責任を負うものとする。
 以上」
・・・

 東北本線つがる
 芙美子の友人(若林映子) が青ざめた顔色で突然、芙美子に会いに来た。
「ねぇ、芙美ちゃん。
 あなたまだ知らないの?
 第二神聖丸が遭難したらしいのよ。
 ほら、新聞に載っているわよ。」
芙美子は、持ってきた新聞を手に取り、食い入るようにその記事に眼をやった。
そして、手にものもとらずそのまま東北本線で室蘭へと向かった。
車中、婚約者の藤田の安否を気遣うと気が気ではなかった。
・・・
藤田が自分のアパートに戻り、ドアの鍵を開けようとしていた。
そこへ芙美子の友人が来ると、手にしていた皿を落とし
まるで幽霊でも観ているかのように血の気が失せた表情で
「あの、
 足ありますか。」と聴いてきた。
「どうかしたんですか?」と藤田が言うと、
「芙美子さん
 第二神聖丸が遭難したって知って、室蘭に向かったわよ。」と告げた。
「えっ、何だって。」そう言うと藤田は、すぐに車で後を追った。
「青森行き、急行つがるよ〜。」
・・・
東北本線上を急行つがるが青森を目指し、北上している。
一方、ゴジラは、同線上を南下しているのであった。
対策本部では、
「総監!
 ゴジラは、20:30仙台市内を蹂躙、時速50km/時で南下しています。」
総監(田崎潤)は、
「前線部隊に命令、
 別命あるまで攻撃は一時中止。」
「しかし総監!」
「我々は、警察と共に避難民の生命、安全の確保に全力を傾ける。
 それから、篠澤博士や科学者グループの方々にお集まり願ってくれ。」
・・・
ゴジラを追尾しているヘリコプターから東北本線を北上中の急行つがるに
警告が発せられ、これを受けたつがるは停車し、乗客は、次々に列車を降りた。
ゴジラは、もうすぐそこまで迫っている。
乗客は、我先にと焦って迎えのトラックに乗り込んでいった。
現場は、.もう騒然として居た。
乗客を乗せたトラックは、待ちきれず発車していった。
その中にあって、芙美子は、一人取り残されてしまったのである。
峠で藤田は、乗客を収容したトラックの運転手から
芙美子らしい女性が取り残されていることを聴くと、
先を急いだ。そして、.現場に着くと川の中に芙美子を見付けたのである。
ゴジラはもう間近に迫っている。
藤田は、芙美子を抱き抱えて、車に乗せると、茂みに車をいれて、
エンジンとヘッドライトを切った。
ゴジラが緊急停車している急行つがるの車両の一部を持ち上げ、投げ捨てた。
さしもの列車もゴジラの前では、玩具のようにいとも簡単に破壊された。
そして、藤田と芙美子は車の中でじっと息を潜めていると、ゴジラはすぐ側を
通過していった。
ほっとした藤田は、
「このあわてものさん。」と芙美子に声をかけた。
「バカバカバカ」と安心したのか芙美子も甘え気味に泣きじゃくっていた。

 ゴジラ阻止作戦
 国連からゴジラの驚異に対して、水爆を使用する旨の通達が総監にあった。
対策本部の面々から、
「総監、
 ゴジラに対しては、埋没作戦と電流作戦があります。
 その結果が出てからでも遅くないと思います。」
総監もこの意見にすぐさま同意した。
そして、両作戦の実施が発令されたのである。
ゴジラは、那須に迫っていた。
対策本部では、100万ボルトの電圧による電流作戦の可否を詰めている所に、
緊急連絡が入ってきた。
「総監
 キングコングが暴れ始めました。」
「何 !!!」一同、一瞬言葉を失った。
・・・

 キングコングの覚醒
 太平洋上では、いかだにくくりつけられていたキングコングが
覚醒し、いつのまにか海の上でいかだに縛り付けられ、
自由を奪われていることに気づいた。そして、何とかして逃れようと懸命にもがいている。
いかだを曳航している輸送船の甲板では、
TTVの桜井、藤木、そして、パシフィック製薬の多湖部長が争っていた。
「おい、やるぞ。
 このままでは、みんなパーだ。」という桜井に対して
「よっ、よし。」と藤木が同意した。
多湖部長は、
「い、いかん、
 キングコングの所有権は、会社にある。」と反対した。
そこへ藤木が、
「やい、タコ!
 キングコングなんてもうたくさんだ。」と言って楯突いたのであった。
そんなこんなで、いかだに仕掛けたTNTを爆発させる、させないで3者がもみ合っているうちに
ひょんな拍子から、多湖部長自身がTNTの起爆用レバーを押してしまった。
・・・・・・
一瞬、みんなが緊張して肩をすくめたが、
いかだのTNTには、どれ一つとして爆発は起こらなかったのである。
桜井と藤木は、急遽手にライフルをとり、いかだのTNTをめがけて発砲した。
なかなか TNTに命中はしなかったが、数発、発砲した時に命中した。
轟音を上げ、いかだは粉みじんとなり、
辺りは水柱と火薬の白煙に包まれ視界が奪われた。
白煙が収まると、いかだのあった海面には、キングコングの姿はなく、
いかだの破片が漂っていた。
と、突然、海中からキングコングが海面に姿を現せて、
胸を2〜3回叩いた。
船上の関係者達は、言葉をもはや失っていたのである。
・・・

 ゴジラ埋没作戦
 ゴジラ埋没作戦は、まず、ゴジラを作戦地域まで誘導するために、
ゴジラの行く手を炎で遮り、巨大な落とし穴を敷設した場所に導く。
落とし穴にゴジラが落ちたならば、青酸ガスの詰まった毒ガス弾を爆発させ、
土中ガス室を作り上げ、ゴジラを抹殺しようという作戦である。
対策本部の作戦実行命令によって、
「バルブを開け。」の合図のもと
ガソリン作戦班が、河川の両側からCALTEXのタンクローリーによりガソリンを一斉放流した。
ガソリンは、川の流れによって川に広がっていった。
「こちらガソリン作戦班、
 準備でき次第、ガソリンに点火して引き上げる。」
と連絡が入った。
そして、たいまつが次々とガソリンの流された川に投げ込まれると、
河川の流れに沿って、ガソリンの炎が広がり、ゴジラの行く手に炎の壁を作った。
一方、埋没作戦実施地では、建築用重機が那須の大地に爪を立てて、
巨大な落とし穴が堀られていった。
そして、鉄製のネットが張られ、巧妙にカモフラージュされたのである。
ガソリン作戦は成功し、行く手を炎によってさえぎられたゴジラは、落とし穴へと導かれた。
ついに、その時はきた。
落とし穴にゴジラが右足を踏み込んだとたん
ゴジラは体制を崩し、穴の中に落ち込んだ。
「点火よ〜い。」号令の後、
「点火」の合図と共に、穴に仕掛けられた青酸ガス弾が一斉に爆発し、
付近が毒ガスの白煙に包まれていった。
総監をはじめとする対策本部の面々の表情に、緊張が走る。
もうもうとする白煙の中、
ゴジラは首を上げ、雄叫びをあげながらはいあがってきた。
「何! 埋没作戦が失敗した。」
その時、
「総監!
 千葉東京湾にキングコングが上陸、
 那須に向かっているとのことです。」と報告が入ったのである。」
篠沢博士は、
「キングコングは本能的によってゴジラをめざしているのでしょう。」
 キングコングとゴジラの対決 -第一ラウンド-
 南下してきてきたゴジラと、東京湾から上陸してきたキングコングが
那須高原で、両雄相対したのである。
互いに雄叫びを上げて、牽制から始まった。
キングコングが足下にあった岩石を怪力で持ち上げ、ゴジラめがけて投げつけた。
之に対して、ゴジラは、放射能炎を発し、キングコングの前の森の木々を焼いた。
その威力は、相当のもので直接キングコングにあたっていはいなかったものの、
キングコングの胸部の体毛を焦がし、煙が上がった。
桜井は、ゼンマイ巻きの16mmキャメラで、両者の闘い振りを撮影していた。
「おい、こりゃぁ、キングコングは旗色が悪いなぁ。」
脇で構えていた多湖部長は、
「そんこたぁない。」と興奮した口振りで反論した。
キングコングは、ゴジラの攻撃が予想外のものだったのか
かなわないと思ったのか、後ずさりをはじめて、
頭をかきながら、振り返って退散してしまったのである。
ゴジラは、勝ち誇って雄叫びを上げた。
第一ラウンドは、ゴジラの勝ちのようである。
 高圧電流作戦
 キングコングとの闘いに勝利したゴジラは、再び首都東京をめざして歩みを進めていた。
対策本部では、先の埋没作戦につづき、ゴジラの首都侵入を防ぐために 、
高圧送電線路に100万ボルトの高圧電流(本当は高電圧)を流し、電流柵を設ける作戦に入った。
首都周辺の.各変電所では、100万ボルト送電のための補強策が急遽実施された。
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・・・次回につづく・・・・・
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